第12話 美咲さん
「あら、貴女は」
金髪少女は振り向く。黒いカチューシャが似合っている美少女だ。
どこか、ルーク様の面影があるような……?
「わたくしは、ミサ・アークリー。貴女がよく知っている者よ」
少女は微笑む。
ミサさん? 誰? アークリーってことは王族?
「? ごめんなさい。人違いだと思います。私、貴女のこと知らないし……」
「! 何よそれ! しっかり生前を思い出しなさいよ!」
ミサさんは必死で弁明する。
「人違いじゃないですかね?」
「ふーん、貴女もわたくしと同じかと思ったんだけど……。どうやら勘違いだったみたいね」
「どういうことですか?」
か、会話が噛み合ってない……。
「そんなに知りたいなら教えてあげてるわ!」
いや別に、そこまでは……。と思ったが、言うと面倒臭そうだから触れないでおこう。
「ここはね、乙女ゲームの世界なのよ!」
「!」
この人、知っているの? もしかしたら、私と同じなのかもしれない!!
「はい! それは私も知っています! と言うか、このゲーム大好きでした! それに、日本出身です!」
この時代、日本なんていう名前の国はないし、
(日本は倭国と呼ばれていたよ!)
これで通じるなら、きっと、私と同じく、目が覚めたらこの世界にいたということなのだろう。
「に、日本……? わたくしもよ!」
「わぁ! 同じ人がいたぁぁあ!」
私たちは感動して抱き合った。
「私の名前は麻里咲です!」
「わたくしは美咲よ!」
「あ! 死ぬほどどうでもいいと思いますけど、私も美咲さんも、咲という字が入っています! 同じですね!」
「そうね!」
「……改めて聞くけれど、なぜこのゲームをプレイしたことがあって、わたくしの名前を知らないの?」
「え? あー、私、最後の隠しステージだけ出来ていなくて、もしかして、そこで出てくるキャラクターなんですか?」
「なるほどね。そうよ。わたくしは最後の隠しルートにだけ出てくる、ヒロインにアドバイスをする友達キャラなの」
「あー、友達キャラっていうのも大変ですよね〜。いつもご苦労様です」
「そうなのよ〜」
あ、そうだ! この機会にずっと気になっていた、隠しルートの攻略対象を教えてもらおう!
「あの、結局隠しルートで攻略できるキャラって誰だったんですか?」
「ああ、貴女リーンよね? ガルシア家の長女の」
「はい、そうですが……」
「そうよね、なら聞いて驚くと思うわ」
「?」
「4番目、最後のルートの攻略対象は……」
ごくり……。
「ルーク・アークリー、その人よ!」
「なっ、なぁぁぁぁあ!」
そのあとに、美咲さんに聞いた話によると、人呼んでルークルートは一番長くて、攻略度が高いわりに(攻略パーセントが100にならないと、告白はできない)頑張って攻略パーセントを貯めたはいいが、ヒロインが告白した後、結局、バッドエンドで終わるため、結構好みに分かれるらしい。
まあ、そのかわり、今までのルートの謎とかの伏線回収もされるそうなので、乙女ゲーム要素はあまりないんだとか。
やってみたかったなぁ……。
「でも、こんなに詳しいってことは、美咲さんもこのゲームが好きなんですね!」
私は笑顔で言う。
「そっ、そんなことはないわ! だって、乙女ゲームよ! そんなオタクが好きそうなもの、わたくしが好きなわけがないじゃない!」
「え? じゃあなんで知っているんですか?」
「それは……。なっ、なんでもよ!」
怒った様子で美咲さんは帰って行ってしまった。きっ、嫌われてしまった……。何か悪いことしちゃったのかな?
でも、分かったこともある。私がヒールの能力は取ってしまったけれど、アリアナの気持ち的にはルークルートに行っていると言うことだ。
そこまでは教えてくれなかったけど、ゲームではアリアナがルーク様に告白するということは、私とルーク様は、なにか、婚約破棄的な物が行われたのだと思う。あのいい子アリアナが婚約者のいる人に、告白するなんて思えない。しかも婚約者は実の姉なんだし。
もしかして、このまま行けば、アリアナとルーク様がくっついて、幸せルートあるんじゃない?! 他のキャラみたいに、ヒールを持って城に行ってやっと会える。みたいなわけじゃないから。私の婚約者と妹っていう立場だから、いつでも会える!
いやぁ〜。正直、子供の頃はお姫様とか憧れがあったけれど、今となれば大変そうだし、わざわざ望んでなりたいってわけじゃないし。これで、アリアナとルーク様は幸せになれるのでは!?
あれ?
少し、私の脳裏にさっき、美咲さんが言っていた、『バッドエンド』が浮かんだ。バッドエンド……。
ってことは、原作通りだとアリアナとルーク様が結ばれる確率は0ってことじゃない!?
なぜ〜!? 今度会ったときにでも、聞いてみないといけないな。
割と、そのチャンスはすぐに回ってきた。
***
2ヶ月後
「あー! 美咲さん!」
美咲さんは、町で買い物をしていた。どうやらドレスを調達するようで、職人のような人に選ばせている。
「うわぁ!」
「ごめんなさい、驚かれました?」
「い、いいわ。それより何かしら?」
「えっと、教えてほしいことがあって__」
私たちは人に聞かれないよう、場所を移して、路地裏に入った。
「なるほどね。隠しルートの内容を教えてほしいと」
「はい……」
「いいわ。教えてあげる……。
まず、このルートは特殊でね、アリアナの幼少期から始まるのよ」
! アリアナの幼少期から? 他のルートなら、城に入った時から始まるはず……。
「リーンに暴力を受け続けるという、読者も十分知っているところを再フューチャーするわけ。そこからもわかると思うけど、このルートではここが大事なの」
「へぇ〜?」
(この子、絶対わかってない……)
「そして、そこが終わったら、5年後からスタートするの。そこからは他のルートとほぼ一緒。攻略対象に出会って、交流していく。で、ルークを100%にしたら、
告白イベントに入る。そこからが問題のところね」
「まず、ヒロインが告白するの。そしたら彼の口から真相が語られるわ。まず、自分がリーンを殺したということを」
「!」
「それに、『自分もアリアナが好きだったけれど、リーンを殺してしまったから、償わなければ、いけない』と彼は言い、自殺するのよ」
「……」
私は、殺された……? それも、自分の婚約者に……? それに、ルークは私が、好きだったの? 頭の整理が、追いつかない……。
「……分かったわね? ごめんなさい、急いでいるからわたくしはもう戻るわ」
「……」
美咲さんはそのまま、少し心配そうにしてから後ろを振り向き、帰って行った。
分からない。分からない。分からない。分からない。
私は立ち尽くす。とても、衝撃だったのだ。今まで信じて疑わなかったことも、なにもかも裏切られたような。そんな感覚だった。リーンが本編で出てこなかったのは、殺されていたから。そして、私を殺したのは、ルーク様……。しかも、このままいっても絶対に、二人は結ばれない。
「っ!」
なにか、気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。
頭が痛い。頭痛がする。
すると、路地裏に入ってくる人々がいた。
「お〜? お前可愛いじゃん」
「じゃあ、俺たちが相手してやろうぜ」
「お前! 最悪だなぁwwww」
「……」
私は彼らの方を向く。
すると一人が私を殴った。そのまま私は地面に倒れる。
不思議と痛くはなかった。
そのまま彼らはしゃがみ、私の服を脱がそうとした。
「っ、やめ……」
すると、意識が遠のく中、誰かの声がした。
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