第10話 一年後

リーン10歳


 あれから、考えた。誰も傷つけずにアリアナにヒールを獲得させる方法を。それで、一つだけ、これは妖精の気分次第な気がするが、これならばいけるかもしれないと思うものが考えられた。


 作戦はこうだ。


『なんらかのことによって、私が瀕死の状態になる。それをアリアナが治すために、ヒールをくれるように、妖精たちに頼む。』


 これならば、誰も傷つかないし不幸にもならない。

それに、アリアナは私のことを信頼してくれる……と、信じたいから、きっとそこについては問題ないだろう。そうだな……。負傷の仕方は、自分で切りつけるのが良いかなぁ……?


 明日、決行するために、今日、森で妖精に会いに行く。明日、私が瀕死になっても助けてくれなかったら元も子もないからだ。私は密かに、館の北側の森に入った。


「失礼します! 妖精さんっている?」


すると、

「なんで、アタシたちがいるって分かったの?」

と言う声がした。

 どこからの声なのかを探す。だが、見えない。

「!?」

「ふふふ、上よ、うえ」


 そう言われて私は上を見る。

そこには、蝶々の羽のようなものをつけた、黒髪でサイドをツインテールしている小さい少女がいた。


「!」

やっぱり、この世界には妖精っているんだ……。


「何をしにきたの? と言いたいところだけど、よく分かっているわ。ヒールの能力が欲しいんでしょ?」

「……うん」

「ってか、なんでアンタ、ヒールのこと知っているのよ! 折角、私が発明したナイショの魔法なのよ!?」

「ご、ごめん……?」

「……まあいいわ、じゃあヒールをあげる」

「え、そんなに簡単にいいの?」


「だって、アタシ、アンタのこと嫌いだもの。だから、早く帰って欲しいの! なんか、記憶は9歳の頃から断片的にしか除けないし、人間じゃない感じがするって言うか、なんか気持ち悪いの!!

はい! これで譲渡は完了よ。あとは好きに使いなさい! 全く!」


 酷い……。けどいい人なのかな?

すると、私の体の周りが緑色に少し光った。


「綺麗……ありがとう!」


……ん?


「あ、あのさ、譲渡ってことは、もう、他の 

 人には譲れないって言うことなの?」

「そうよ、もう、他人には渡せないわ」


妖精の少女は腕組みをして言う。


「なっ……」


他人に渡せないって言う事は、アリアナにも渡せないって言う事じゃん!


「どうしよう……」

「もう! いつまで居座るつもりなの!? 早く帰ってよ〜!」


妖精の少女は怒っている様だ。それほど私のことが嫌いなのだろうか。

……悲しい。


「あ、ごめん。ありがとう、またね」

「またね!? もう二度とこないでよね!」

「う、うん……」


 妖精ちゃん、可愛かったなぁ……

昔はよく、ファンタジー系のゲームとかも、朋美と遊んだもんだ……懐かしいなぁ。


 って、そんなこと今はどうでもいい!どうしよう、ヒールの能力って今、私が持っているんだよね?! それで、アリアナに譲渡は絶対にできない!? なぜ! なんでこうなった!? とっ、とりあえず、本当にヒールが使えるか試してみたいな……自分で骨、折ってみようかな。


 館に帰る。部屋に戻り、机の上に椅子を乗せてその上に立つ。これで骨、折れるかな?まあいいや、よし、飛び降りよう。そう思った時、部屋にアリアナが入ってきた。

「あっ……」

やばい。


「失礼します、お姉さ、ま……? はっ、早まらないでください! お母様も亡くなって、お姉様も亡くなったら、私はどうすればいいのでしょう! せっかく剣術も教わったと言いますのに! やめて下さい!」


 アリアナは必死で止めようとし椅子を揺らす。


「あっ、ちょっと、揺らさないで! アリアナ!?」


 アリアナが止めようとしたことによって、椅子は机から落ちる。つまり、椅子の上に立っていた私も結局落ちた。


「きゃあ!」

「うわぁあ!」


『どーん、ガラガラガラ』という、漫画みたいな効果音がなる。

「いたた……」

「っ! すみません、お姉様! 大丈夫ですか!?」

「いいよ、アリアナこそ大丈夫?」

「はい、だいじょ……っ!」


アリアナはどうやら膝を擦りむいたようだ。

 直すとか……。大丈夫かな……。アリアナにならバレても大丈夫だよね?


「アリアナ、膝見せて」

「はい……?」


 私はアリアナの膝に手を近づけて、『ヒール』と念じた。すると、先ほどのように、膝の周りが少し、緑色に光る。すると、みるみるうちに傷が癒えていった。


「……!? えっと、これは?」

アリアナはとても驚いている。


「なぜか今日、北の森に行ったらかくかくしかじかで……」

「……そ、そんなことが……。なるほど、それは、すごいですね! さすがお姉様ですっ!」

アリアナは微笑む。


すぐ信じたなぁ……。


「ならば、お姉様が明日から村に赴いて、人々の怪我を治して差し上げるのはどうでしょう!」

「へ……?」


マジで? もう騎士団とかも行ってて余裕ないんだけど……。


「行きましょう!」

「あ、はい」


私も推しには逆らえなかった。

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