第9話 才能

 今日で、転生してから5ヶ月が経った。つまり、アリアナも4ヶ月、剣の勉強に励んだということだ。

 ……正直言っていい? いや、そこが可愛いんだけどさ、アリアナ、全くと言っていいほど運動が出来なかった。


 私も一応、剣道有段者だから才能の有無は分かる。でも、アリアナはそのレベルじゃないぐらい酷い。いや、ガチで。剣を振れば手から飛んでいき、木に刺さる。


 漫画みたいでありえないなって思ったけど、そういえばここは乙女ゲームの中だった。乙女ゲームならあり得るのだろうか……。

 主人公のアリアナは運動ができないとか、そういう設定はなかった気がするんだけど……。


 それに、貴女には才能がないっ! とか言ってしまうのはかわいそうだから、そのまま練習は続けてるんだけど、ほぼ上達しないから、ちょっと、このままだとやる気がなくなっちゃうんじゃないかな……。そこが不安。


「うーん……」

「どうしたの、リーン」

 カムレアが顔を覗き込む。

「えっとね、実はさ……。」

 私はアリアナが剣を習いたいと言ってきて、教えたのだけれど上手くならないということを伝えた。


 しまった! なんか自然に色々話しちゃったけど、大丈夫だったかな!? 異世界から来ましたとかバレたら、笑い事じゃ済まないよ!


「そうなんだ……。ということは、君はアリアナさんに剣を教えるためにここで習いに来たの?」

「う、うん。実はそうなんだ……」

「へぇ……。なら君は、とてもいいお姉ちゃんなんだね!」

 カムレアは笑顔になる。

「そ、そう?」

 不意に顔が熱くなる。

 もしかして照れた? ……私が? おっ、落ち着けぇぇぇぇえ! 相手は10歳ぐらいの男の子だぞ! 私18歳だからギリギリ合法か……。って! 私、何考えてるの!? ばかぁぁあ!


「そう考えると困るね……」

「だよねぇ〜。どーすべきかなぁ……」

 私はため息をつく。


「でもね、リーン。ぼくは、はっきり言うのをお勧めする。もちろん彼女も傷つくだろうが、それはそれで成長の一つなんだよ」

 カムレアは微笑む。


 時々、彼はとても達観しているように見える。何故なのかは分からないけれど、過去に何かあったりしたのだろうか。


 一応、カムレアルートはクリアしているが、彼の過去なんてものは出てこなかった。ただ攻略するだけ。それに、俺様じゃないし……。


「ありがとう! じゃあ、こんどアリアナにちゃんとしっかり言ってみる!」

「うん、頑張ってね」

 ふと、目線を下に落とす。彼の手に、あざがあった。それも長袖を着ているから分からないが、服の下まで続いているようだ。結構大きい。

「このあざ、どうしたの?」

 私は聞く。

「っ! 別に、なっ、なんでもないよ……」

 少し動揺したようにしてからカムレアは答えた。

「?……」


「おーい、続きやるぞー!」

 ラールド団長の声が聞こえた。

『はーい!』

 私たちは急いでラールド団長の元に向かった。




 はぁ……。あのあざのこと、最後まで聞けなかったなぁ。練習終わったらすぐ帰っちゃうし。まあ今はとりあえず! アリアナにバシッと本当のことを言わないと!


「アリアナ!」

 私はアリアナの部屋の扉を開ける。アリアナはビクッとした。

「お、お姉様!?」

「あのさ、気づいているかもしれないんだけど……」

「は、はい」

「……」

 言えない。だって、傷ついたら可哀想じゃん?!

 あぁぁぁぁあ! どうしよう!


「あ、あのさぁ」

「?」

「あ、えっと」

「お姉様。何か言いたいことがございましたらはっきりおっしゃって下さい。私は全然、大丈夫です」

 アリアナ……。


「っ、じゃあ、言うよ!? アリアナは、まっっっっったくといっていいほど、剣の才能がない! それに、剣振ったら木に刺さるってどゆこと!? 逆にすごいわ! それで、このままやっていたら、きっと貴女は一向に伸びない! だから、もっとやり方を考えるか、それともやめるか!」


 はっ! 言いすぎた……?

 おそるおそるアリアナの顔を見る。


「な、なるほど……! ずっと上達しないなぁと、思っていたんです! やっと謎が解けました! ありがとうございます!」

「え、あ、うん……。  てか、ごめんね。言いすぎたわ……」

「? 何がですか? というか、才能がないなら、私は文学を頑張りたいと思います!」


「え、それでいいの?」

「逆にそれじゃまずいですか?」

「……いや、なんでもない」

「はい! では早速、ミヤに勉強を教えてもらいに行きます!」

 ミヤとはアリアナの専属メイドである。


「う、うん。頑張って……」

「はい!」


 そういうと、アリアナはミヤのいる部屋まで行ってしまった。

「は、はや……」

 そ、そういえば彼女って、リーンの暴力にも耐え抜いた子だったから、メンタル、すごい強いんだね……。




 その日から、アリアナは文学、私は武術を一生懸命に頑張って、私は試合で優勝。アリアナは薬を取り扱う資格試験に合格した。今で言う、薬剤師みたいな感じだ。でも、私も参考書みたいなの読ませてもらったけど、すごく難しくて、アリアナはすごい頑張ったと思う。

 正直彼女は勉強の才能はあったから、伸びるのも早かった。


 私はどちらかというと文系だから真逆だなぁと、そんなことを思った。そのまま、文学と武術にそれぞれ熱心になって過ごしていたら、あっという間に私が転生してきてから、一年が経った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る