第3話 朝っぱらから

「起きて!」


「はい」


 光の声が聞こえた。即効覚醒する。


「今日はやけにすんなり起きたわね……」


「……可愛い」


「あ、朝っぱらからなによ!?」


「いや、思わず見蕩れてしまって自然と口に出てしまって……ごめん」


「べ、別に謝ることじゃないわよ……ほら!学校一緒に行くわよ!さっさと朝の支度してきなさい!」



「了解!」


 光と登校だ……朝からテンションがぶっ壊れそうなくらい嬉しい。


 ―――



 母親の作ってあった朝飯をかっ込み、制服に着替えて歯を磨き即準備を終わらせた。


「待たせてすまん」


「いいわよ。じゃあ行きましょ」


「うん。……あのさ、これからは俺、自分で起きた方がよくないか?」


「だめよ!」


「……なんでだ?待たせるのも悪いし……」


「い、いいの!」


「……光がそういうならいいか……」


「そうよ!……寝顔堪能できなくなるし……」


「ん?なんか言ったか?」


「な、なんでもないわよ?!」


「寝顔がなんたらって聞こえたけど……」


「き、気のせいよ」


「寝顔か……俺、光の寝顔見たい」


「……っ変態!」


「真っ赤な光も可愛いな」


「……」


 無言で俺の頬に手を動かす光。


「え、ちょ、痛い痛い!俺なんも悪い事言ってないじゃん!」


 俺が涙目で訴えると手を離してくれた。てか、光の手めちゃくちゃ柔らかかったな……


「……ん」


 俺が光の手に思いふけっていると、光が無言でこちらに手を差し出す。


「も、揉んだ方が?」


「……馬鹿!握りなさいってこと!……揉むのは家に帰ってからしなさい」


「了解しました!」


 言われた通り、光の手を握る。


「うおっ」


「へ、変な声あげない!」


「失礼しましたぁー!」


 居酒屋で皿を割った時の店員みたいな声を出しつつ俺は幸せ過ぎて泣きそうになっていた。













「……なぁ、光。今日って何月の何日だっけ」


「ええと、たしか6月23日よ」


「……ありがとう」


「どうしたの?そんな深刻そうな顔して」


「いやなんでもない」


 ……幸せで浮かれて忘れていたが、今通った道で思い出した。


 正確には光が殺された道。


 明日。光はこのままだと、通り魔に刺殺される。



 ―――




 授業中、考える。


 光が殺されたのはあくまでも俺が光と付き合って無かった世界線の事。俺の意識がこうして戻ったことで歴史も変わっている……


 いやでももしかしたら、歴史は何も変わらず結局光は死んでしまう運命なのかも……いやいやいやそんな事考えるな。


 しかし前者だとしても巻き戻っていると考えるなら結局通り魔は現れ、誰かが殺されてしまう……


 とりあえず光には絶対に安全な何処かに居てもらって……いやでもその間に光が死んでしまったら……!


 思考が堂々巡りだ。最良の選択肢が分からない。







 ……いや、待てよ?運命なんてものが存在しているなら何故俺は10年前に戻って、こうして光と付き合っている?本来ならば光が俺と付き合うなんて未来は存在しないはず……ということはだ。運命なんて存在しないのでは?あるのは結果だけで。


 俺が明日通り魔を止めれば結局のところ誰も殺されずに済むのでは……?


 とりあえず明日は光に安全な場所にいてもらい、俺が通り魔を止める。


 そうしよう。


「おい、お前ぇ!」


「はい?」


「今さっきから当ててるのに無視しやがって!」


「すいません」


「お前、この問題解けなかったら放課後補習だからなぁ!?」


 意地悪な顔でにやつきながらそう言う数学教師。


「えっと……X=23ですかね?」


「この連立方程式を暗算だとぉ!?」


「はい。授業をちゃんと聞いてなくてすいませんでした」


 ぺこりと頭を下げる。


「ぐっ、……以後気をつける様に!」


 多数の生徒からよくやった!みたいな視線を感じる。


 話を聞いてなかった俺が完全に悪いのだが数学教師が悪者扱いみたいな雰囲気になってるぞ。


 この数学教師人気がないらしい。


 ―――




 昼休み。昨日と同じく外のベンチで光の弁当を食べることにした。


「なぁ、光。明日学校休んでくれないか?」


「はぁ?どうしたのよ急に」


「いや、ちょっとな。できる限り光には家に居てて欲しいんだが……」


「……怪しい。理由を話しなさい」


「うっ……」


 光の真剣な眼差しを受けてしまった俺は光に詳細を話すことにした。


 弱い。

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