◆6
…∮明治・大正浪漫と赤い紫陽花∮…
少女が視線を落とした紫陽花。近代的な、図書館の門を照らす明りに反映して、滴り落ちる滴、その一粒までもが赤く見えてくる。
それは まるで――――、
「赤い紫陽花はそんなに珍しいか?」
最初に投げかけた言の葉を、再び紐解く少女。それはどこか、値踏みするような居心地の悪い色味を帯びていた。正直、なんと答えたら良いのか見当がつかないが、沈黙しているわけにもいかず、曖昧に口を開く。
「珍しい、のかな……多分」
「はっきりせんな」
訝しげに目を細めると、こちらに向けた視線をふらりと落とす。伏し目がちに紫陽花を眺めながら、少女は再び口を開いた。
「少年はどうしてこの花が赤いと思う」
「え、」
同じ――いや寧ろ年下にも見受けられる彼女に、改めて“少年”と呼ばれるのは如何なものだろう……。すんなり受け入れられず、喉の奥で言葉が絡まる。
どうして赤いか?そんなの答えは一つしかないのに。
(――――本当に、答えは一つなのか?)
ふとよぎった考えは、果たして自分の物だっただろうか。言葉は喉の奥で絡まったまま、鉛のようにつかえてしまった。
赤い紫陽花から滴るそれを、自分は何と思ったのだ――――?
「……」
(有り得ない、有り得ないだろう、そんな)
頭を軽くふって、愚考――を振り払うように紫陽花を視界に映す。
「……紫陽花が赤い理由は一つしかない。土壌、でしょう。酸性かアルカリ性かで土から吸い上げる色素に違いがでる。ただそれだけだよ」
はっきりと言いきってみても、彼女の表情は変わらなかった。
「赤い紫陽花は珍しいのだろ? 先刻そう言ったではないか。その割に随分と一般論で答えるのだな」
「……」
好戦的にも見える彼女の好奇に満ちた視線に、苦々しく視線を外すしかない。
「感情表現の乏しい奴だな、少年。いいこと、それはね」
幾何かの沈黙。
そうして彼女は言った
なんの前触れもなく
それは私の、
死体、だと――――――――。
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