創世

 夜がいつまでも続けばいいのに。

 そう思ったある日の夜から、『朝』が消えた。

 世界の全てが停まっている。私もまた、停まっている。

 ティーカップに口をつけた姿勢のままで、リビングの片隅に座りこんで、停まっている。最早いつからこうしているのかも分からない。

 目の端に映る時計もまた、停まっているのだ。時間の経過は計れない。そもそもこの世界にまだ時間の概念があるのかどうか。

 確かめる術はない。なぜなら私は停まっているのだ。携帯は使えず、本も読めず、自分の足で外の世界を見に行くことも叶わない。

 出来るのはただ、この場で思考することのみだ。

 薄ぼんやりと考える。

 なぜ、こうなったのだろう。

 夜がいつまでも続けばいいのに――私がそう思ったからか? いや。思っただけで時間が停まるなら、とうの昔に停まってしまっていたはずだ。楽しい今日を惜しむ時、面倒な明日に思いを馳せる時、私は何度も思ったのである。今がずっと続けばいいのに、と。

 ありふれた現実逃避。そんなものに、世界を変える力はない。

 別の理由があるはずだ。しかし、それは一体何なのだろう。

 そこまで考えると、私の思考はいつも停滞する。現状を合理的に紐解く理屈を、どうしても思いつかないのである。

 ああでもない。こうでもない。足りない頭を捻って、捻って、捻り出した理屈はこんがらがっていて、冷静になってみると何を考えていたものか自分自身でも判然としない。

 そも、こうなった理屈が分かったとして、動けない身でどんな対処ができるというのか。

 考えるのが段々馬鹿らしくなってきて、最近はもっぱら想像に意識の容量を割いている。

 想像はいい。停まった世界の中であろうと、自由に躍動し、広がっていく。

 想像の中で、私は山に登り、海で泳ぎ、異国の城を探検し、ビルの合間を飛翔した。時には別の人間の人生を、透明人間になって眺めたりした。―――要するに物語を創ったのである。

 頭の中に描き出される物語は次第、広大無辺、精緻を極め、それと反比例するように私という存在は小さく薄くしぼんでいった。

 やがて物語世界が『完成』した時、私はぷつりと泡の弾ける音を聞いた気がした。

 物語が世界に溢れる。

 物語が世界を塗り替える。

 物語が世界になる。

 同時に『私』が透明になっていくのを感じた。

 私が消える。

 ほんとうに消える。

 私が消えて、神

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