三十一話:噂話


相堂学園の1F廊下。やっと来香さんとの地獄の通学タイムが終わりを迎えた。別に来香さんが嫌だという訳ではなく、誰かと会話しながら通学するのが嫌なので誤解はしないで欲しいと誰にも届かない言い訳を心中で呟いておく。


「--それじゃ」


俺はこの場から早く立ち去りたいという想いから直ぐに別れを切り出す。然し、


「あ、蓮太郎先輩!帰りは何があっても教室で待っててくださいね?」


ガシッと俺の手を掴んで微笑む来香さん。気の所為か、掴む力が強い件。有無を言わせないほどの圧と掴む力に俺はただただ頷く。


「来香との約束ですよ?嘘ついたら、ナニするか分かりませんからね?」


「--はい」


脅しまでされた以上、俺に拒否権はない。というより拒否したり抵抗した所で意味が無いのは分かっているため、無駄な労力を使いたくない。


「じゃ、今度こそ」


「はい!またお昼に!」


「・・・」


俺の返事を待たずに来香さんは去っていく。相変わらず人の話を聞かない自由人だ。


「まぁ、いいか」


大きな欠伸を噛み殺しながら、教室へと向かう。早く席についてHRまで寝ようと予定を立てていると、


「ねぇ、烏杜君」


「・・・んぁ?」


不意に声かけられて思わず自分でもわかってしまう程の機嫌が悪そうな声を出してしまう。別に不機嫌という訳では無いが、誤解されても仕方ない。何故なら、昔からの癖であり、友人が作れない理由の一つでもあるからだ。


「はァ? 何その反応?夏葉にだけ反応露骨すぎじゃない?」


「あー、どうかしましたか? 夏葉・・・さん?」


どうやら声をかけてきたのは夏葉さんだった様だ。屋上での件以来、声を掛けてくることも目を合わせることさえもしてこなかったと言うのに、モブな俺に何の用事だろうか。正直、彼女と関わるのは気が乗らない。


「今更取り繕っても無駄だから。それに自分じゃ気づいてないかもだけど、ただでさえ死んでる目が夏葉を前にすると更に死んでるのがマジでムカつく」


「・・・・」


「反論しろっての!カマかけたのに図星だったわけ?! マジのガチでムカつくんだけど」


「あ、え?」


カマかけしてくるなんて恐ろしい奴だ。普段ならもう少し取り繕うこともできたが、夏葉さんの前ではどうも上手くいかない。心の底から彼女の事が面倒くさくて苦手なんだろう。


「まぁ、いいわ。アンタに嫌われようが夏葉は痛くも痒くもないし」


「あ、はぁ…」


なら別に大声で叫ばなくてもいいのでは?と思ったが口にするのは火に油を注ぐような行為になるのでやめておく。こういう面倒事はさっさと終わらせるのに限る。


「それでなんの用で?」


「なんか面倒くさそうな感じがムカつくけど、寛大な夏葉は優しいから許してあげるけど、次は無いから」


「ありがたき幸せ?」


「茶化されたみたいでウザイ」


俺の発言に夏葉さんが睨んでくる。自称寛大と言う割に許容出来る量は少量の様だ。これで寛大なら俺も寛大だと思う。とは言えないので謝罪しておく。


「ごめんなさい」


「--!? そ、そんな素直に謝られると困るんだけど!? べ、別に謝って欲しいわけじゃないし!」


「・・・?」


どうやら下手したてに出られると戸惑うだけでなく困惑してしまうらしい。意外と根は優しい人なのかもしれない。


「・・・・」


「な、なに?! そんなにじっと眺めても制服が透けたりはしないんだけど!!」


「--は?」


突然何を言っているのだろうか、この人は。もし服が透けて見える眼を手に入れたとして、夏葉さんに使うことは無いし、ましてやそんな眼よりも俺は誰にも邪魔されない平穏な生活の方が欲しい。


「・・・用がないなら、もう行っていいか?」


夏葉さんとこれ以上話すのは心底疲れる。話が脱線しすぎて頭が痛い。俺は彼女の返答を待たずに教室へと行こうとすると、


「ちょっと待って!用ならあるから!」


グイッと首根っこを掴んできた。思わず変な声が漏れる。然し、そんな事は気にとめずに夏葉さんは、


「地原来香と恋人関係ってホント?」


まだ漏洩されてないはずの爆弾発言を投下して来た。

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