二十九話:【愛情】という首輪
【束縛】。地原来香の『今後一切、他の女の子と関わっちゃダメ』発言を聞いた時、咄嗟に頭を過った言葉。カップル間で時たまあると言われる俺的には都市伝説に近いモノ。まさかそんなモノが自分に降り掛かってくる日が来ようとは、思いもしなかった。束縛で上手くいくカップルなんてゼロに等しいだろうに、恋の病というものが薬漬けされた思考みたいに人を狂わせるのだろうか?
まぁ、なんにせよ長く関わるのはヤバいということだ。
「えーっと、流石に妹くらいは良くないか?家族なんだし」
『いーえ、ダメです。世界には血の繋がった兄妹同士で恋に落ちるなんて事例も有るんですから。それに、たとえ現状の可能性が0%だったとしても、五年後、数十年後も0%っていう確証は有りませんよね?だったら最初からその可能性の全てを断ち切れば不安になる事も嫉妬する事も悲しむこともないじゃないですか? そうは思いませんか?蓮太郎先輩』
「・・・・」
彼女の言うことはめちゃくちゃだ。他人の気持ちを理解する容量を1バイトも持っていない。全てが自分の事で埋め尽くされている。正しいのは自分で、間違っているのは全て他者。そして何よりも独占欲が誰よりも強い。正直に言って、苦手なタイプだ。
『とまぁ、そういうわけなので明日から蓮太郎先輩と登下校するのは来香の特権になりました。よろしくお願いしますね、蓮太郎先輩♡』
「・・・・いや、えっと、来香さんは、俺の家・・・知らない・・・よね?」
『そこは大丈夫です!蓮太郎先輩の事は調べてありますので!居場所なんてすぐ分かりますよ!!』
「・・・ん?」
家を知っているか聞いただけなのだが、居場所が分かるという発言は意味が分からない。まるで俺がどこにいても居場所が分かるとでも言っているような答え方だ。問題はここで言ってる事を深堀するべきか、しないべきかだ。選択を間違えたら面倒臭いことになるのは間違いない。ギャルゲでよくあるルート分岐。ただし、セーブもロードも、ましてやリセットさえできない。1度、口にした言葉は消えない。正しいも間違いも行動してみないと分からない。
「そ、そうか。なら・・・別にいいのか?」
何がいいのか自分でもよく分からなくなってきたがそう答える。俺が取った選択は深掘りしない。
面倒事はゴメンだ。だけど、一つだけどうしても知りたい事があった。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど・・・いいか?」
『聞きたいことですか? それって、来香の恥ずかしい事やスリーサイズとか性感た--』
「いや、そういうのじゃなくて!?」
地原来香のトンデモ発言に思わず声を荒らげる。
『むぅー、じゃあなんの質問なんですか?』
少し拗ねている様子の彼女が尋ねてくる。俺は一度、咳払いをして心を落ち着かせた後、聞きたいことを口にする。
「いや、たった一度の出来事で俺みたいな奴を好きになった理由がわからなくて・・・」
彼女の言う通り、俺の事を調べ尽くしているなら、俺がどんな人間か知っているはずだ。青春なんて程遠い人間だと言うことを。根っこが汚い人間だと。醜い人間だと。そんな俺が青春を味わえるとは思えない、?
『好き嫌いに理由なんていります?』
「・・・いると思うけど、違うのか?」
『来香は要らないって思います。確かに理性的に考える事ってのは大切だと思いますけど、恋愛感情ってのは本能なんです。この人の遺伝子が欲しい!って生まれながらにして持つ本能が訴えてくるんですよ。だから、蓮太郎先輩に手を差し伸べて貰えた時に、来香の本能がキュンキュンしたんです。堪らないほどに蓮太郎先輩の遺伝子が欲しいって疼いたんです』
「・・・なる、ほど?」
なんというか途中からやばい方向へと話が逸れている気がしたが、何となく言いたいことは理解した。そういう経験がない以上、あっているのか間違っているのかは定かでは無いが、誰かを好きになる時は本能が疼くということだけは分かった。という事は、俺は地原来香に対して本能が疼いてないことになる。それはつまり、恋愛感情が無いという答えに繋がる。その事を彼女に伝える事が大切なのだろうが、伝える事でどういう未来へと行き着くのか見えない。最悪な方向へ進むなら言わない方がいいのだろう。
『因みに蓮太郎先輩が来香に対してそういう感情がないってのは分かってますので謝らなくても良いです。来香は、蓮太郎先輩が来香に自分の子を孕ませたいと思ってくれるようにアプローチしていこうと思いますし、その為に恋人関係を結んだん訳でもありますから』
「・・・!?」
彼女の発言に驚愕する。最初から俺の気持ちに気付いていたことに。そして知っていて強制的な恋人関係を結び、俺を独占する事で自分以外の女の子からのアプローチを潰す手段に出たことに。正味、そんな事しなくても女の子からのアプローチなんて受けたことは1度も無いので、心配する必要はないと思う件。自分で言って悲しくなるのはお決まりである。
『とまぁ、そういう訳なので、明日から覚悟しておいて下さいね、蓮太郎先輩♡』
それじゃ、おやすみなさい、と地原来香は告げて通話を終了した。
「はぁ…面倒いことになった」
スマホを耳に当てたまま、俺はため息をついた。
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