二十八話:人間性


夕飯を終え、風呂も済ませた後。母さん達はソファでだらしなくくつろぎながらバラエティ番組を笑い声を上げながら観ている。因みに俺はそれを眺めながら、食器を洗っている最中だ。


「いつも悪いわね、蓮太郎」


喉が乾いたらしい母さんが夕飯の時に使用していたコップにお茶を注ぎながら労いの言葉をかけてくる。


「別に今更だろ。俺の方が誰よりも帰るの早いんだし、唯華に任せると食器は割れるわ汚れが残ってるわと、結局やり直しで二度手間になるしな」


「ふふふっ、そんな事もあったわね。まぁ、唯華にもそろそろ一つくらいは家事を安心して任せられる様になって欲しいわね」


「・・・そうなってくれたら、少しは楽になるんだけどな」


ソファで相変わらずバラエティー番組を鑑賞しながら笑い転げる唯華を見る。


「まぁ、無理にやらせる訳にもいかねえし、アイツから教えてって言うまでは様子見で良いだろ」


「単純に教えるのがめんどいだけよね?」


「・・・母さんの捉え方がひねくれてるだけだろ」


俺はそう返して、最後の一枚を洗い終える。


「はいはい、そういう事にしといてあげるわ」


母さんはそう言うと、俺の背中をバンっと叩く。地味に力加減を間違えている所が母さんらしい。昔から力加減が難しいとかで細かい作業が嫌いなのだ。


「少しは加減を覚えてくれよ…」


俺はソファへと戻っていく母さんの背を恨めしげに見つめながら、愚痴を零す。


「まぁ、いいや。今日はやる事やったし部屋戻るk・・・うおっ!?」


軽く伸びをして、机に置いておいたスマホを手に取った瞬間、着信音が鳴り響いた。いきなりの事に驚き、スマホを落としかける。なんとか落とさずに済んだが、慌てて掴んだ際に画面に触れてしまったのだろう--


『もしもーし、愛しの愛しの蓮太郎せんぱーい♡ 貴方だけの可愛い可愛い彼女ですよー♪ 聞こえてますかー?』


地原来香の何処か甘ったるい声がリビング中に響き渡った。そん時の俺の気持ちを説明するなら、こうだろう。 親にエロ本が見つかった時の思春期男子の気持ち。要するに、死ぬほど恥ずかしいだ。


「「「「・・・・」」」」


『あれ〜? 聞こえてないのかなぁ? でも、通話中になってるし…もしかして--別の女の子と一緒だったり?』


誰一人、言葉が出ない。響くのは何も知らない地原来香の声だけ。ガサガサと微かにスマホから音がした後、


『もしも〜し!今から蓮太郎先輩のお家に伺おうと思うので、直接顔を合わせて楽しくお話しましょ--』


「あ、えっと!もしもし? 地原さん?」


俺はスマホを手にリビングを出て、慌てて返答する。流石にこのタイミングで家に来られるのはまずい。とりあえず家族への説明は後にして、先にこの問題を解決することが大事だ。


『あ、蓮太郎せんぱぁい♡ 無視するなんて酷いじゃないですかぁ〜。せんぱいはぁ、来香だけをたくさん構わないとダメなんですよぉ?だからぁ、他の女の子と遊んでたりしませんよね?』


甘ったるい声の中に狂気が顔を出す。


「・・・」


『あれ〜?なんで何も答えてくれないんですか?もしかして本当に他の女の子と遊んでたんですか?』


徐々に首を絞められていくような感覚に寒気を感じる。これが恋人関係の奴らは日常茶飯事なのだろうか。こんな事なら一生独り身の方がマシだ。


「・・・逆に聞くが、俺に女の子が寄ってくると思うのか?」


『それはもちろん、寄ってくるに決まってるじゃないですか。 だって、登校時も下校時も妹さんと後輩の女の子と一緒なの知ってますし。それにギャルっぽい姉妹とお弁当食べてたのも、オカルト部の暗そうな女の子とも仲良くしてるのも知ってますよ』


薄々危ない系のタイプだと思ってはいたが、残念な事に当たってしまったらしい。一度会っただけの奴の為に時間を割いて調べる事も、監視していた事も普通であればストーカー行為だ。彼女は恐らく、恋は盲目という言葉が当てはまる女の子だ。それが分かった以上、余計に誤解を解くのが厳しくなった。彼女に別れ話を告げた日にどんな行動に移すのか想像できない。最悪、暗めなギャルゲとかでいう自殺エンドや心中エンド、病みエンドも有り得る。父さんには責任を持てとは言われたが、そこまでの責任を持つというのはあまりにも重すぎる。


『でも、明日からは妹さんとも他の女の子と帰ってもダメだし、お話してもダメですからね?』


「・・・は?」


『だって来香と蓮太郎先輩は誰もが羨むイチャイチャカップルじゃないといけないんです。そこに邪魔者が入ってきたら台無しじゃないですかぁ?だぁかぁらぁ、今後一切、他の女の子と関わらないでくださいね♪』


地原来香は甘ったるい声でそう告げた。

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