二十七話:夕陽と燈火
「もうそろ父さん達が帰ってくる時間だな。おい、起きろ、唯華」
「うきゃっ!?」
夕飯をすぐ出せるように全工程を済ませた後、テレビに映るバラエティー番組を眺めながら休憩すること、数分。俺は時計に目をやって時間を確認し、いつもの様に膝に頭を乗せて眠る唯華を叩き起こす。
「むにゃむにゃ…おやすみ」
「おはようだろ」
まだ寝ぼけているらしく言っている事とやっている事が真逆だ。そんな唯華を引っ張りながらリビングを出て、玄関へ。そのタイミングでインターホンが鳴った。これがナイスタイミングというやつだ。ガチャリと扉が開き、
「唯華ちゃァァァん!パパが帰ってきたぞ〜!!」
父さんが飛び込んできた。そして恒例の唯華による兄ガードが炸裂した。身代わりにされた俺に父さんが抱きつく体勢になりかけるがコチラもガードに使われることは学習済み。俺は少し横に移動すると、飛び込んできた父さんは目標を失い、そのまま壁に激突する
「--うぐぅ!?」
痛そうな声を上げて撃沈する父さんの姿に母さんも唯華も『大丈夫?』と声をかける様子はない。見慣れた光景に大した反応を示さない。
「改めて、ただいま。蓮太郎、唯華」
「おかえり、母さん」
「おかえり〜!ママ!」
何事も無かったかのように告げる母さんにそう返す。
「今日の晩御飯はなにかしら?」
リビングへと入り、上着をハンガーにかけながら母さんは尋ねてくる。
「今日は買い出しに行くの忘れてたから、家にあったもんでハンバーグかな」
「へぇ、いつもなら絶対に買い出しに行く蓮太郎が忘れるなんて、珍しいわね。何かあったの?」
「あー、いや、別になんもないよ」
一瞬、見透かされたと思い、ドキッとしたが平静を装う。流石に地原来香の件についてはバレるわけにいかない。絶対めんどいことになるし、何より親に迷惑をかけたくない。もう親に泣き縋るような歳でもない。高校生ならば自分で考えて解決するべきだ。
「ふーん。まぁ、蓮太郎はそういう子よね。隠し事があっても、もう親に泣きつく様な子供じゃないんだから自分で解決しようって。そんな風に思う事を別に悪いとは思わないわ」
「・・・・」
「でもね、誰だって大切な人が悩んで心が押し潰されて、それに気づいた時には手遅れでってなった時、後悔するの。それが実の子供だったらって思うと尚更ね」
その言葉には親から子への愛情がある。ひねくれている俺でも分からないほど馬鹿じゃない。
「勿論、そうなる前に気づくのが親だろって言われたら反論できないんだけどね」
「はっはっは!そうだぞ、蓮太郎!だから、隠し事はやめるんだぞ。じゃないと、父さん、拗ねるからな」
壁激突から復帰した父さんがそんな事を言いながら、リビングへと入ってきた。
「いい歳した大人が子供みたいな真似するなよ…」
「おいおい、蓮太郎。父さんはな、つくづく思うんだ。君はこうしなさいとか、君はこうあるべきだっていうのは誰が決めたんだ?価値観ってのを押し付けるってのは、その人の個性を殺してる様なもんなんだ。だから父さんは拗ねる時は拗ねる。真面目な時は真面目にすると決めている」
真剣な表情で頭良さそな発言をしている風を出しているが、結局は子供の屁理屈と同じだ。俺は相変わらずな父さんの言葉に、自分の隠し事のスケールが小さく思えてきて、隠す事が馬鹿らしくなってきた。
「とまぁ、そう言った所でお前が言ってくれる訳でもないし、俺達が無理矢理聞き出したりもしない。でも、アレだ。その隠し事がもしも誰かを傷つけるモノなら、どんな結果になろうが責任はしっかり持て。自分だけじゃなく相手のことも考えて行動しろ。いいな?」
「・・・唐突に真面目な事言うなよな」
「はっはっは!父さんだって真面目な話くらいするさ!どうだ?かっこよかったか?ん?」
父さんが腕を組みながら賞賛してくれと言わんばかりにワクワクしている。しかし、残念なことに最後の一言のせいで台無しだ。
「さーて、母さんは早く着替えてきなよ。後、唯華は料理運ぶの手伝ってくれ」
なので、無視する事にした。
「・・・お、おい!? 蓮太郎!父さんを無視するな!それと、唯華ちゃんと夕陽も無視せず構ってよ!ねえ!」
同じく無視して着替えに行く母さんと、飲み物の用意やサラダやハンバーグが盛られたお皿を机へと運びに行く唯華に父さんが涙目で懇願するが、その訴えは届くことも無かった。
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