二十六話:烏杜家のルール
地原来香と何故か付き合う事になった後、その事で頭いっぱいになってしまった俺は自室のベッドに仰向けで寝転がり、天井を眺めていた。
「あ・・・オカルト部に寄るの忘れてた」
ふと、そんな事を思い出す。今頃、凛花さんと唯華は怒っているか、心配してるのだろう。それにアリスさんには悪いことをしてしまった。朝の下駄箱で部活に顔を出す約束をしたというのに破ってしまった。
「はぁ…謝らないとな」
ベッドから身を起こし、机に置いていたスマホの電源をつける。すると、数件ほどのメッセージと着信が来ていた。そのどれらも唯華からのもので、内容は部活に来ない事への心配だった。俺は唯華とアリスさんに謝罪のメッセを送り、再びベッドに倒れ込む。地原来香の話通りなら夜に通話がかかってくる為、その事を考えるだけで頭が痛くなる。
「ホント嫌な気分だな」
自分で蒔いた種とはいえ、相手も相手だ。さすがに、呼び出しに答えただけで付き合う認定されるなんて予想できただろうか。アニメやドラマでもそういう展開は俺の中では見た事がない。実は俺が知らないだけでそういう作品もあるのかもしれないが、普通に考えて意味がわからない。コミュ症の俺が普通を語るなと言われそうだが、地原来香が異常なのは誰が聞いても納得する筈だ。
「まぁ、過ぎたことは仕方ない。問題はこの面倒臭い関係をどう無くすかって事だ」
直球で『別れよう』と言うのが解決策としては早いし正しい事だろうが、その後の学園生活に支障をきたすのは分かりきっている事だ。情けない事に俺は他人とつるむのを好まないくせに、嫌われる事は嫌なのだ。馬鹿馬鹿しいと我儘だと思うかもしれないが、人間なんてそんなもんだろう。自分が一番可愛いのが当たり前で、他人優先なんてのは自己満から来るものだ。褒められたいから。頼れる人、優しい人、良い人だと思われたいから。結局、人ってのは誰かから賞賛されたいのだ。
「自分のことながら心底めんどくさい奴だな」
いつからここまで面倒臭い人間になったのか。今となっては一欠片も思い出せない。強いて言うなら、気づけばこうなっていたって感じだ。
「・・・そろそろ洗濯物取り込む時間か」
ゴロンっと寝返りをうった際に、時計が目に入る。時間的にもそろそろ唯華も帰ってくる頃で、父さんと母さんもそれに少し遅れる感じだろう。気分的に重く感じる体を無理矢理起こして、唯華の部屋と俺の部屋のベランダに干されている洗濯物を取り込んでいく。その途中で、ちょうど部活帰りの唯華の姿を捉える。
「あ、蓮兄〜!ただいま〜!!」
「あぁ、おかえり」
相変わらず大声の近所迷惑な唯華に言葉を返して、残りの洗濯物を取り込み終える。そして階段を降りて、唯華を出迎える。理由としては我が家ルールで『家にいる者は帰ってきた家族を笑顔で絶対に出迎えること』というものがある。別に好きでやっているわけじゃない。最初の頃はやりたくないと抵抗したが、ことある事に唯華や父さんに場所関係なくしつこく言ってくるのが面倒臭いのと恥ずかしいということもあり、諦めた。そして、それを待っていたかのようにピンポーンとインターホンが鳴らされる。
「おかえり、唯華」
「ただいま!蓮兄!!」
さっきも挨拶したのだが、まぁ、あれはアクシデントみたいなものなのでノーカンに入る、と前の時に言われた。
「まだ夕飯出来てないから、着替えてこい。後、鍵は締めんなよ。父さんと母さんも、もうそろ帰ってくる時間だ」
「はーい!」
唯華は元気よく返事をした後、階段を駆け上がっていく。
「さて、夕飯の支度を始めるか」
俺はリビングに戻り、猫のイラストが刺繍されたエプロンを身につける。このエプロンは唯華が誕生日にプレゼントしてくれた代物だ。ちょうど新しいエプロンを買おうと思っていた為、助かった。
「今日は・・・ハンバーグっと」
最近食べていなかった事もあるし、ちょうど食材も揃っていたので早速取り掛かる。それから数十分程経った頃にリビングの扉が開く音がした。
「あぁ、唯華。ちょうどいいところ・・・に」
そう声をかけながら、顔を上げるとそこには、
「はぁ…。今日は家族以外誰も来ないからって、下着一枚にシャツってのはどうかと思うぞ」
言葉の通り、白シャツに下着姿の唯華。せめて、下着を隠せるサイズの白シャツを着て欲しかった。誰が妹なんぞの下着姿を見たいと思うのだろうか…。頼むから下を履いてきて欲しい。
「まぁまぁ、減るもんじゃないんだから、下着の一枚や二枚なんてことないって」
「そういう問題じゃねえよ、アホ」
「おやおや?もしかして蓮兄の蓮兄が!?」
「断じてそれは無いから安心しろ」
思わず野菜を切る為に動かしていた包丁を握る手に力が入り、ダンっとまな板に叩きつける音が鳴った。せっかく丁寧に切っていたのに唯華のせいで台無しだ。
「ぶー、わかりましたよーだ。まったく蓮兄は・・・」
唯華は拗ねた様子でブツブツと文句を垂れながらリビングを出ていく。その姿に俺はため息をつく。
「ほんとアイツはストレスを感じさせる天才だよ」
そう愚痴を零して、再び夕飯の準備にとりかかった。
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