二十二話:面倒事の避け方

翌日の朝。唯華と凛花さんとの登校も気づけば当たり前になっていた。昔から流れに身を任せるのも適応するのも苦手では無かったこともあり、自分の置かれている環境に変化が起きても動じることも無い。まぁ、だからといって友達ができるというわけではないが。適応した所で身を任せた所で本心を隠しているのだから相手は仲良くしたいとは思わない。俺だって逆の立場なら仲良くしたいとは思えない。


「んじゃ、また後でね!蓮兄!!」


「ゆいゆいと教室に迎えに行きますね!お兄さん!」


最初の頃より俺に対しての距離感が縮まったらしい凛花さんが当たり前かのようにそう言って唯華と共に教室へと走り去っていく。流石にこんな早さで距離感が縮まっている事に驚きだ。俺なんてまだ下の名前を呼ぶのが難しいというのに。


「・・・迎えに・・・ねぇ」


午前中から憂鬱だ。


「れ、蓮太郎…君。お、おは…よう。…ひひっ」


「・・・・ひぃぇお!?」


背後からいきなり声を掛けられたことで、下駄箱に額をぶつけてしまう。チカチカと火花が散るような感覚と声にならない程の痛みに襲われる。てか自分でも思うが変な驚き声だなと思う。


「だ、だいじょう…ぶ!?」


痛む額を擦る俺に声をかけてきた生徒が気遣ってくる。


「い、いや、ちょっとビックリしただけで。大したことないから大丈夫。そ、それと、おはよう、アリスさん」


軽く頭を振って痛みを和らげた後、早口で挨拶を返す。それにしても学校でアリスさんが声をかけてくるのは珍しいなと思う。普段は頼んでもないのにスマホの方にオカルト記事と共に朝の挨拶が送られてくるのだが、今日は違うらしい。これはアレだろうか?俺が適当に返事をしていることに対して機嫌を損ねてしまたのか、それともちゃんとオカルト記事を読んでいるかを確認するために声をかけてきたのだろうか。どちらにせよ、最悪で面倒なことには変わりない。


「そ、そう…。と、ところで、きょ…きょうは…部活…ある…から。来て…ね? …ひひっ」


最近気づいたことなのだが、アリスさんが不気味に笑う時にチラッと長い黒髪から覗かせる眼は紫色の水晶の様に綺麗だったりする。知ってる人は殆どいないと思う。まぁ、前も言った通り、目を見たら呪われるなんて言う馬鹿馬鹿しい噂があるのだから好きで見る人はいないし、それも無理はないか。


「あ、あぁ。分かった。教えてくれてありがとう」


「う、ううん…。ぶ、部長として…当たり…前のこと…しただけだから…。そ、それじゃ…」


アリスさんはそう言って、俺より先に教室へと向かっていく。その背を暫し眺めた後、下駄箱を開ける。そして室内シューズに手をかけようとして、カサっと音がした。流石に室内シューズからそんな音が鳴るのは有り得ない。よくよく中を見てみると小さめな手紙があった。こういうのは恐らくラブレターってのが定番だろうが、そんなのは有り得ない。どうせろくでもない事が書かれている。絶対にめんどくさい事が。なら、俺がする行動は決まっている。


「・・・よし、見なかったことにしよう」


俺はそっと手紙を下駄箱に残したまま、室内シューズに履き替えて教室へと向かった。

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