二十話:妹の友達

一日の授業が終わり、下校時間。


俺は、サッカー部へと向かう神谷幹人に一限目の数学ノートを手渡し、その足でそのまま教室を出ていく。本当ならもう少し教室で1人ぼーっとしたい所だが今日は諦めるしかない。この後のことを考えると憂鬱な気分だ。ドタキャンしてくれた方がありがたいんだよなぁ。


「・・・めんどくせぇ」


はぁ、と溜息をつきながら唯華達が待つ教室へと向かう。どうやら迎えに来て欲しいとの事で、心の底からめんどいったらありゃしない。


1年教室は下駄箱のある位置よりも奥にあるので、前を通り過ぎて行くことになる。そのまま曲がって帰りたい。


「あいつの教室は・・・ここだっけか?」


教室にまだ明かりがついていて、何人かの女子生徒の声が響いてくる。


「ねぇねぇ、唯華ちゃんのお兄さんってほんとに超絶イケメンなの?」


「もちろん!蓮兄は完璧超人だからね!」


「マジ!? 頭も良くて運動神経抜群、それに紳士的で超絶イケメンだなんて・・・ハイスペックなお兄さんがいて唯華は羨ましいなぁ〜」


内容的には俺の話らしいのだが、おかしいな?俺に当てはまる要素がゼロな件。

頭は悪くは無いがよくもない。運動神経に関しては普通ぐらいだと思う。紳士的かと言われれば違うと断言出来る。そして最後の超絶イケメンに関しては全然違う。自己評価的には中の下か、中の中くらい。中の上は流石にないと言える。というかだ、超絶イケメンなら俺はボッチになってないし、彼女が出来ないわけもない。


クソ偏見と思われてもいいが、超絶イケメンは人生の勝ち組だ。基本顔が良けりゃ、人は寄ってくるものだ。それも高校生となれば尚更だ。よく言うだろう。


男も女も【イケメン彼氏】や【可愛い彼女】とかいう見栄張りブランドを欲しがるものだ。


一応、個人的な意見の為、反論しても構わない。


「・・・入りづれぇ」


ここまで期待されて、実の顔は平凡ですってなった時の空気感はしんどい。


「まぁ、でも妹から見たお兄さんの評価だから過度に期待しない方が良いかなぁ」


「あ〜、それは一理あるかも。実際どんなけ完璧に見えても不祥事起こす芸能人とかもいたりするし、フユら一般の人にも当てはまるからねぇ」


「むっ!蓮兄は不祥事なんて起こさないもん!」


二人の女子生徒の発言はごもっともだ。だいたい、兄弟でも親子でも評価ってのは甘くなりやすいもので、他人同士だからこそ厳しく評価できる。それにお陰で少しだけ扉を開けるハードルが下がった訳だが、それでも入りづらいのに変わりはない。なんかもう少し俺が入りやすいきっかけを作ってくれないだろうか。


「あ、そうえば蓮兄にどこの教室にいるか連絡してなかった!」


「え〜!? それはマズイって、唯華ちゃん!」


「早く連絡しなよ!お兄さん迷ってるかもよ?」


唯華の言葉に俺はマズイ!っとその場を離れようとするが、時既に遅い。ブーブーっとポケットに入れていたスマホの振動音が廊下中に鳴り響く。それは勿論、教室内にいる唯華達も気づいているわけで・・・。ガラガラッと扉が開き、


「・・・何してるの? 蓮兄?」


「・・・何ってお前に返信する所だけど?」


「いやいや、返信するなら耳に携帯当てなくてもよくない?」


唯華に指摘された通り、何故かテンパりすぎてたまたまタイミングよく教室前にいたっていう誤魔化し方をすれば良かった所を、扉の前で携帯を耳に当てて冷や汗ダラダラの引き攣り顔では無理があり過ぎたようだ。


「んな事はどうでもいいんだよ。それよりも、今日、家に来るのはこの子達でいいのか?」


「あ、あ〜、うん!この二人で問題ないよ!」


誤魔化す為に話を逸らすと、唯華が頷く。二人の女子生徒は俺の事をしばし眺めた後、コソコソと何かを話し合うと直ぐに机に置かれている鞄を手にしてこちらへと駆け寄ってくる。


「はじめまして!雪國ゆきぐに 時雨しぐれって言います!今日はよろしくお願いします!唯華ちゃんのお兄さん!!」


礼儀正しく頭を下げて自己紹介をしてきた黒髪お下げの頭の良さそうな女子生徒、雪國時雨。我が妹もこれくらい礼儀正しかったら良かったのにと思ってしまう。


「次はフユの番だね! フユは桃市ももいち 冬葉ふゆは!気軽にフユって呼んでくださいね?蓮太郎先輩♪」


もう一人は白雪の様な髪色をした明るめな元気タイプの女子生徒、桃市冬葉。何となく我が妹に近しいアホっぽさを感じる。



・・・桃市?どこかで聞いたな。まぁ、同性の人なんて沢山いるだろうし、気にする必要も無いか。


「・・・よろしく、雪國さんと桃市さん」


緊張のあまり素っ気なく答える。ただでさえ、人と話すのがあまり得意ではないのに、相手が異性だなんて拷問に等しい。それも1人ではなく2人ときた。流石に初手からやりに来る様な拷問はそうそうないぞ。


「よーし!自己紹介も終えたことだし、早速、家に帰ろう!」


唯華が机に置いていた鞄を手に取り、下駄箱へと向かい始めたので、その背を俺たち三人も追いかける。


そして我が家に着くまで、雪國さんと桃市さんからの質問攻めに唯華のフォロー込みで何とか答え続けた。

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