十九話:結局、妹に勝てない兄

「で?わざわざ教室まで来てあんなことしでかして何を考えてんだ?お前は?」


人気の少ない旧校舎近くに到着した俺は、引きずるように掴んでいた唯華を解放して尋ねる。せっかく、平穏に学園生活を送っていたはずなのに、また唯華に妨害されるとは。だからあれほど他の高校に行けと懇願したというのに。いい歳して兄離れ出来ないのは困る。俺も恋人が作れないし・・・いや、まぁ、どちらにせよ俺に恋人が作れるわけはないんだが…。自分で言って悲しくなったのは言うまでもない。


「何を考えてって・・・どうやって蓮兄とイチャラブしようか、だけど?」


「・・・くだらない事に俺を巻き込むなよ」


唯華のアホな発言にため息をつく。ただでさえ普段から相手するのが面倒臭いというのに、こんなくだらない事に俺の貴重な睡眠時間を割く訳にはいかない。


「むぅー!くだらなくないもん!女の子は皆好きな人とイチャラブする事しか考えてないんだよ!」


「・・・んな訳ねえだろ」


大きい声で怒ることさえめんどくさい程に呆れた馬鹿な発言にため息をつく。毎度毎度何故こうも俺に迷惑かけるような事ばかりするのか。どうせ構って欲しいからとかそういう理由なんだろうが、せめて学園内では放っといて欲しい。まぁ、もう手遅れな話だが。


「まぁ、後悔した所で意味もねえし、その話はもういい。本題はお前が変な尾ひれつけまくったホラ話を信じた子らを家に招待するって話だが・・・却下だ。すぐに俺の話は全部嘘だってことを謝ってこい」


ほら、行けっと蚊を追い払うように妹に手を振る。俺の評価が下がろうがなんて言われようが問題ない。ただ、ソレは俺発信の話の場合だ。別に唯華が傷つくのは嫌だとか、そういう大層な理由ではなく、両親が共に嘘は嫌いだからだ。今までは俺が両親にバレないように唯華をフォローしてきたが、流石に家に来られてはバレてしまう。例え、唯華にとってはカッコイイ兄だとしても、結局それは主観であって、誰しもがそう感じている訳では無い。近しいものと言えば『恋は盲目』っていう言葉が合うか。唯華はそういう状態だ。


「やだ!蓮兄はカッコイイもん!」


その言葉が本心ってことくらいはこんな俺でも分かる。


「はぁ….。何でこういう時だけ頑固なんだよ…お前は」


ムスッとした顔で俺を見る唯華にため息をつく。こうなってしまえば何を言っても無駄だ。いつもいつも結局折れるのは俺や両親側。長引かせてもどうしようもならないということはこれ迄の経験で学んだ。きっとここにそれを知らない第三者がいたら甘いとか言われるんだろうな。現に凛花さんには何度か言われたっけ。


「うそ…じゃないもん」


「あーもう…わかったわかった。家呼んでもいいから泣くなって」


今にも泣き出しそうな唯華の頭をポンポンっと優しく叩く。


「…ほん…と?」


「ほんとほんと。俺が嘘ついたことあるか?」


「・・・ある」


「・・・ぐっ!ま、まぁ、今回はホントだって」


俺は引き攣った笑みを浮かべて告げる。まさか何回かコイツに対して適当にごまかしてきたのを覚えていたとは。小さいから大丈夫だろうと侮るのは危険だな。


「まっ、そういう訳だ。さっさと涙拭いて教室戻れ。怒られんぞ」


「う、うん!」


いつもみたいに明るうるさい声で頷いた後、ぐしぐしっと制服の袖で目元を拭う。そして人懐っこい笑顔を浮かべて教室へと帰っていく。その背を見送って、教室へと戻ると扉の鍵がしまっていた。そして気づいた。


・・・次、移動教室じゃん。

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