十八話 妹の頭がおかしい
一限目の数学後の貴重な数分間休憩。俺はその時間を一番大切にしている。というのも、長くも短くもない中途半端な時間しかない為、トイレと睡眠どちらかに最活用したい。だから、こんな時間に駄弁ったり走り回るのは体力の無駄。わざわざそんな事で体力を使うのも、時間を費やすのも馬鹿らしい。ちなみに俺は基本、睡眠を最優先にしている。ぼっちだからこそ誰にも邪魔されることなく寝れる。不思議な事に俺の周りにはバリアが張られてんのかって思うくらい、人が寄ってこない。悲しいような嬉しいような複雑な気分だ。
「・・・・ん?」
いつもの様に両耳にBluetoothイヤフォンを差し込み、音楽を流そうとスマホの画面を付けると、一限目にいなかった神谷幹人から急にメッセージが飛んできた。一瞬、無視しようという考えが頭をよぎったが、これから何度も顔を合わせるのだから腹を括るしかないだろう。俺は大きくため息をついた後、メッセージの内容を確認する。そこには
『蓮太郎!すまん!! 一限のノート写させてくれ!頼む!』
という内容と両手を合わせて頭を下げているお願いしますスタンプが送られてきていた。別にそんな義理はないのだが、彼が一限を受けれなかった理由としては貧血らしい夏葉さんを保健室にいたからだったので無下にする訳にもいない。『いいよ』とだけ送り、スマホをしまう。これで後は気兼ねなく寝ることが出来ると両腕を枕に眠る瞬間、ビックリするほど大きな着信音がスマホから鳴り響いた。普段、家族からしか連絡が来ない為にマナーモードにしなくても問題なかった為に、油断していた。顔をあげなくても周囲の視線がコチラに向けられているのが分かる。俺は逃げる様に教室を出て、人の少ない廊下でスマホを取り出す。案の定、連絡してきたのは唯華だった。
「お前なぁ・・・学校ではかけてくんなって言っただろ。そのせいでクラスメイトから恥ずかし--」
『そんな事よりも蓮兄!!大変な事に気づいちゃったんだよ!私!!』
兄の羞恥悲しいエピソードをそんな事で片付けるのは酷くないか?我が妹よ。偶にコイツは本当に俺の事を大切だと思っているのか不安になる。
「はぁ…。どうせお前のことだから、大したことじゃないんだろ」
『ふっふっふ。甘い甘い。そう、例えるなら、たこ焼きに砂糖をぶっかけて食べる程に甘い』
「・・・意味の分からない例えを出さないでくれ。頭が痛くなる」
昔から意味不明な例えを出す癖のある唯華には、流石の俺も言葉に困る。それに今までも、大変な事とと言いつつ、『可愛い女の子がいた』だの『最近、胸が大きくなった』とか、全く興味のないものばかり。いい加減にして欲しい。
「で?その大変なことってなんだよ?」
『ふっふっふ。なんと、なんと!素敵で超絶イケメンな蓮兄に会いたいっていう女の子が2人!今日、家に来ることになりましたぁー!!ぱちぱちぱち〜♪』
「・・・・」
俺は電話を切った。きっと今の着信は夢だ。眠かったし、寝てたに違いない。そうに決まっている。このうるさく鳴り響く着信も夢で、本当は鳴ってないに決まってる。だから、うん。絶対気の所為だ。よし、そうと決まればもっと深い眠りに・・・・
「蓮兄ぃぃいいいいいいいいい!!」
廊下からダダダダッという大きな音が響き、勢いよく扉が開かれたと思ったら、唯華の大きな声が教室中に響き渡った。その声にクラスメイト達が一斉に唯華に目を向けた。・・・最悪だ。他人のフリをしよう。
「・・・・」
俺は腕を枕にして顔を伏せた態勢で寝たフリをする。然し、悲しいかな。コチラがどれだけ他人のフリをした所で、唯華が見逃してくれるはずもなかった。
「あ!蓮兄いた!! 蓮兄!蓮兄!可愛い可愛い愛しの妹のラブコールを切るなんて!いつもは人様の前じゃいえないほどにラブラブなのに!!」
「・・・・」
「ちょっと蓮兄!起きてるんでしょ!ねぇってば!起きてよ!蓮兄ぃぃいい!!」
グイグイっと俺の身体を揺すったり、引っ張ったりする唯華を無視して寝たフリを続行。暫くして諦めたのか、触られている感覚が消え・・・チュッと俺の頬に柔らかい何かが一瞬触れた。
「--っ!?おまっ、今何しやがった!?」
「あ、起きた♪」
「起きた♪じゃねえよ!何したか答えろ!」
「何って--目覚めのキス?」
唯華は悪気のない顔でケロッと答える。なんていうか無性に殴りたくなってきた。というか殴っても許される気がしてきた。むしろ、殴らせてくれ。なんで兄妹でオマケにクラスメイトが見てる中でそんなことが出来たのか、恐怖でしかない。案の定、クラスメイト達も戸惑っている。なんとも言えないこの空気をどうしてくれるんだ、このバカは。
「そうかそうか、よーく分かった。話は廊下で聞いてやるからさっさと来い」
「はっ!これは呼び出しからの告白パティーン!?」
「脳内お花畑すぎんだろ、お前は・・・」
俺は唯華の制服の首根っこを引っ掴んで、教室を足早に出ていく。背を向けたとはいえ、クラスメイトからの視線がイタイ。静かで平穏な学園生活もこれで終わりか、と思うと引きこもりになりたい気分だ。
「連兄、そっちは中庭じゃないよ?」
「うるせぇ、アホ」
唯華の発言にそう吐き捨てて、俺は人気の少ない場所を目指して歩いていくのだった。
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