十六話:ギャルの不安

「ふんふふーん♪」


邪魔者を排除できて心が弾む。きっと・・・ううん。絶対に幹人は褒めてくれる。夏葉の事をぎゅーって抱きしめて、「君は最高のお姫様だよ」って耳元で甘く囁いてくれる。想像するだけで胸が高鳴る。早く幹人に・・・夏葉の王子様に教えてあげなきゃ。もう二度と烏杜君に脅される事もない。友達にならなくてもいい。幹人は明るい人達と友達になって自由に遊べるんだって。


「あ〜、楽しみだな〜♪」


夏葉はこの喜びを表すようにスキップする。トーントーンって廊下に夏葉の喜びの足音だけが響く。これで夏葉も勝ち組だ。素敵な素敵な王子様のお姫様になれるんだもん。全ての人が夏葉を羨み、妬む。でも、それでいい。妬まれるってことは夏葉が上の存在だと認められたってこと。この世は夏葉と幹人の為にあるんだもん。幹人以外みーんな下僕。逆らう奴も従わない奴もぜーんぶぜーんぶ夏葉が消す。幹人は何も知らずに幸せに生活していればいい。綺麗なままでいてね、夏葉の王子様♡


「あ、結局、烏杜君がどんな弱みを握ってたのか聞いてなかったなぁ。聞いとけば、幹人を完全に夏葉のモノに出来たのに・・・ざんね〜ん」


ふと思い出して、失敗したなぁと肩を落とす。まぁ、でも、弱みを握らなくても幹人は夏葉から離れないよね。だって、ずーっとずーっと一緒だったんだから。


「大丈夫・・・」


スマホの待ち受け--初めて会った時に一緒に撮った写真。それを撫でながら甘く囁く。


「幹人は・・・夏葉を裏切らないよね?」


そして最後に愛情たっぷりなキスをしてスマホをしまう。


「みーきーひーと!おっはよ・・・・う?」


教室の扉を勢いよく開け、中にいるはずの幹人に声をかける。けど・・・幹人の姿がない。なんで?どうして?


「・・・!? もしかして・・・烏杜アイツを探しに・・・」


最悪な想像。夏葉は知っている。幹人があんな暗い奴を探しに行くわけが無い。きっと他の用事なんだよね。うん、そうだよね。幹人はそういう人間じゃないもんね。


「それに・・・烏杜君は幹人に近づかないって約束してくれたんだもん。あんな暗い奴が夏葉に逆らえるわけないもん。絶対に・・・」


でもなんでだろう。不安が無くならない。幹人の事を知ってるはずなのに。信じてるはずなのに。不安が拭えない。寧ろ、増していく。


「大丈夫…幹人なら大丈夫…。夏葉の王子様なんだもん…。夏葉が信じないと…。夏葉が…」


不安。不安が…。頭から離れない。胸が苦しくなって、呼吸のリズムが分からなくなってきて、ムカムカが無くならない。昔の自分を思い出しそうになって気持ち悪い。信じることをやめたら、昔に戻る気がして…でも…信じて裏切られた時のあの気持ちはとても


痛くて…苦しくて…。意識が遠のきそうで---。


「---は?」


声が微かに聞こえた。・・・誰だろう?


「お、おい!夏葉?! 」


フッと力が抜けて身体が重い。そんな夏葉を誰かが抱きとめた。聞き覚えのある声。その声で・・・名前を呼ばれる度に心が弾む。


「幹・・・ひ・・・と?」


抱きとめてくれた誰かの顔を見上げる。少しボヤけているが、間違いない。幹人だ。その確信が安堵に変わり、意識は微睡みへと沈んでいった。

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