十五話:ギャルと陰キャ
夏葉は昔から暗い人間が嫌い。ジメジメとした雰囲気もオドオドした話し方も全部が嫌い。なのに、いつも夏葉に近づいてくるのは暗い男ばかり。別に明るい人間が寄ってこない訳じゃない。でも蓋を開けてみれば、基本はヤリモクばかりの猿しかいない。そんな夏葉を救ってくれたのは神谷幹人。明るい世界を生きる王子様。そして夏葉の愛しの王子様。明るい人しか彼に近づいちゃいけない。そのはずなのに…なんで幹人はあんな暗くてオドオドした
--幹人はアイツに脅されてるんだよね。
うん、そうと決まれば、邪魔者を排除しないと。
大丈夫。夏葉は幹人の思ってる事は全部分かってるもん。
--だから任せて、夏葉の王子様♡
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「・・・っ!?」
男子トイレを出た俺は唐突な寒気に背筋を震わせる。一瞬、嫌な気配を感じ取った気がするのだが、周囲を見渡しても人影はない。
「・・・気のせいか」
よくよく考えたら嫌な気配を感じた所で、どうこうしようとも思っていなかったし、学校で物騒な事件なんて早々起きないだろう。とりあえず、さっさと教室に戻って、寝よう。そう決めて欠伸をした瞬間、肩に誰かの手の感触が生じた。
「ふあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
ビックリしすぎて廊下で、バカでかい声を上げてしまう。恥ずかしいを通り越して死にたい。幸い廊下を歩く生徒は少数だったので良かった?と思いたい。教室に響いてませんように! そんな切実な願いを唱える俺の耳にクラスで聞いたことのあるような声が投げかけられる。
「声掛けただけで叫ばないでよ、もう」
・・・声掛けた?俺に? 意味不明すぎてよくわからない。そもそも知り合いは2年にいないので話しかける人はいないはずなんですよね。それに何度も言うけど視界外から肩トントンやめてくれませんか?心臓弾け飛びそうな程にびっくりしたんですが??
「あ、えっと…誰…ですか?」
声は聞いた事がある。しかし名前がわからない。俺は関わることの無い人の顔を覚えるのは得意じゃない。
「え〜、夏葉の事もう忘れたの? 一応、烏杜君とクラスメイトで、幹人と同じクラス委員長なんだけど」
「・・・クラスメイトで・・・クラス委員長」
分からん。名前が思い出せない。ただ、自分で夏葉呼びしてるということは『なんちゃら夏葉』って名前なのだろう。『なんちゃら』の部分が全く思い出せない。どうしたものかと頭を悩ませる。その反応がお気に召さなかったらしい夏葉さん(苗字を知らないので仕方なく)は不機嫌そうな顔だ。
「人の名前覚えてないなんて、烏杜君ってサイテーだよね。だから友達もできないんじゃないの?」
「--!?」
夏葉さんがそう告げる。俺にとっては大きなお世話だ。それに友達が欲しいだなんて思っていないのだから、できないもクソもない。この女はデリカシーというものが欠如してるのか? てか、なんで俺にわざわざそんなことを言ってくる?何か気に触ることでもしたか?
「・・・・」
「だんまりってことは図星なんだ〜。友達いないなんて、夏葉的には信じらんないんだけどぉ」
バカにしたければ好きなだけすればいい。どうせこんなイビリも直ぐに飽きる。それに俺以外に害もないのだから気にしなくてもいい。寧ろ、俺なんかに時間を割いてまでバカにしてくるコイツが哀れでしかならない。暇にも程がありすぎて笑えてしまう。
「まぁ、アンタみたいにジメジメした暗い奴に友達なんているわけないよね〜。うんうん、って事で、そんなくらいくらーい烏杜君にお願いなんだけど--」
夏葉さんは、ぐいっと俺の耳元に口を近づけ、
「幹人にまた近づいたら殺す」
敵意むき出しの脅迫を囁かれた。もっと面倒な事でもお願いされるもんだと思っていたが、そんなことならお易い御用だ。むしろ、ありがたい。それに近づいてるのは俺じゃないんだけど…。まぁ、面倒な事になるし良いか。
「えーっと、別にいいけど」
「ん!ありがと!それじゃ、またね♪」
敵意むき出しの態度はどこへやらというくらいに満面の笑みで俺から離れる夏葉さんは、最後に肩を軽く叩いてきた後に教室へと戻って行った。取り残された俺は、夏葉さんが目の前からいなくなるまで、その場から動くことは無かった。
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