十四話:気持ち悪い

翌日の始業前の時間。まだ教室にやってくるクラスメイトは少ない。というのも今日から、休みだった朝の部活動が再開されたからだ。と言っても運動部しか朝練は無いので、仮入部したオカルト部の活動はない。因みに、唯華と凛花さんも仮入部との事らしい。正直、好きな部活に入ればいいのにと俺は思う。誘われたのは俺だけであって、二人は関係ないと言うのに意味不明だ。


「お?蓮太郎!早いな!」


「・・・!?」


大きな声と共に肩を叩かれ、ビックリする。心臓が止まるかと思った。頼むからいきなり声をかけないでもらいたいし、いきなり肩を叩かないで欲しい。と言うよりも、視界の外からだけはホントにやめてください。お願いします。


「ビックリさせちまったか?すまん!今度から気をつける」


声をかけてきた相手、神谷幹人が両手を合わせて俺に謝る。知らない奴ならシカトしていたが、一応顔見知りなので反応しないとな。


「い、いや、いいよ。気にしないで、幹人君」


「ん〜、蓮太郎が言うなら分かったぜ。あ、まだ言ってなかったな。おはよ!蓮太郎!!」


「お、おはよう。幹人君」


朝から元気いっぱいな神谷幹人に若干引きつつ挨拶を返す。昨日と違い、今クラスに来たとなると、部活の朝練に参加していたのだろう。そうえば、彼の部活がなんなのか知らないなと言う考えが頭を過ったが別に知った所でどうでもいいか。俺はなるべく学校では平穏に暮らしていたいのだ。


「なぁなぁ、蓮太郎」


始業前の準備をしながら、神谷幹人が話しかけてくる。恐らく、誰でもいいから近くの人で話しの相手になって欲しいのだろう。残念なことに俺以外に席の近い人はまだ居ないため、睡眠は諦める。


「どうしたの?幹人君」


「いや、大したことじゃないんだけどさ、連絡先交換しね?」


「・・・えーっと。幹人君と俺が?」


男と連絡先を交換するのは父さん以外で初めてだ。あ、でも、あれだ。唯華に好意を寄せてた奴等が俺に気に入られようと連絡先をほぼ強制的に交換させられてたなぁ…。あはは…おかしいな。なんで涙が出るんだろう・・・。


「な、泣くほど嫌だったか?蓮太郎?」


「え? あぁ、いやいやいや!? 交換だよね!う、うん!連絡先交換しよ!ね?」


踏み込む人との距離を間違えたと勘違いした神谷幹人に首を横に振り、慌ててスマホを取り出す。危うくクラスのトップになり得るような存在の人に悪い印象を与える所だった。断ったりでもしたら、彼か彼以外の誰かに何されるか分からない。陰キャな俺が安全に学校で三年間を過ごすには、『目立たず』・『静かに』・『なるべく敵を作らずに』の三点を心がける必要がある。まぁ…未だに唯華のせいで、これらを守りきれたことは無いが。


「そ、そうか? じゃ、頼むわ」


神谷幹人はスマホを取り出して、連絡先の画面をこちらに見せる。俺はその連絡先を検索し、申請を送る。しばらくして、承認され、互いに連絡先を知る仲となった。


「よし! これで俺達は友達だな!」


笑顔で神谷幹人は『友達』と告げる。俺が彼の友達?? 連絡先を交換しただけで?話したことも少ししかないし、こちらから心を許した覚えもない。ただ話しかけられたから対応しただけで、そこに友達になりたいという思いは存在しない。簡単に言えば、仕事中に同僚に話しかけられた時や客に話しかけられた時に愛想良く対応するようなものだ。なので勝手に友達認定するのだけはやめて欲しい。だからといって、文句を言えるわけも無い。


「う、うん。友達…だね」


無理してでもそう答える。本当は心の底から気持ちが悪くて仕方がない。どこからが友達と呼べるものかを俺は知らない。連絡先を交換しただけで友達なら、昔に交換した人達も友達ということになる。それは絶対にありえない。


「ご、ごめん。トイレ行ってくるね」


我慢が出来なかった。俺は直ぐにトイレまでかけていき、個室に入る。そして便座を開けて、盛大に吐いた。


「友達ってなんだよ…くそ」


昔から『友達』という関係が嫌いだった。初めは優しい奴で友達になれて良かったって思った事もあった。でも、化けの皮ってものはすぐ剥がれるものだ。「金を貸してくんね?」や「ジュース買ってこいよ」って言葉の後に決まって必ず「俺たち友達だろ?」って。それが友達という関係なら俺はそんなものいらない。一人静かに学園生活を送る方がまだマシだ。いつだって他人ってのは簡単に裏切る。もう二度と裏切られたくない。


「よし、行くか」


俺は手を洗うついでに、顔も洗って気持ちを切り替えた。

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