十二話:部活動見学 後編
「さて、一通り運動部を見たわけだが・・・気になるのはあったか?」
部活動見学を初めて三十分後。俺達は一度休息という形で自販機で購入した飲み物を手に中庭のベンチに腰かけていた。因みに休息を挟んだ理由としては、運動部の見学時に少しだけ練習に参加したからだ。俺は断ったのだが、無理矢理やらされた。だってあんなグイグイこられたら陰キャの俺にはどうすることも出来ない。という事で唯華や凛花さんも疲れているだろうという気遣いを言い訳に、俺の体力回復をしている。
「んー。良い雰囲気ではあるけど何か違うな〜って感じ。りんりんはどうだった〜?」
「あー、私は運動部はいいですかね。あまり汗かきたくないので」
汗はかいているもののまだまだ元気な唯華と、相当疲れたらしく天を仰ぐようにぐったりしている凛花さんはそう答えた。どうやら唯華と違って凛花さんは運動があまり好きじゃないらしい。しかし、その割には運動神経は良い方なのか、どの部活も難なくこなしていた気がする。まぁ、俺に関しては論外だ。運動なんてクソだと再認識しました。
「って事は、運動部には入らないって事でいいか?」
「えぇ、私は大丈夫です」
「私も大丈夫!!」
俺は二人の返事を聞いた後、運動部が羅列したページを閉じる。一応、見てない運動部もあったが理由としては野球とサッカーしかないからだ。この2つに関してはどう考えてもあの二人には関係ない。てか、連れてったらあの野獣共が黙っていないに決まっている。マネージャーとしてって勧誘されるのだけは避けたい。俺が女でもあんなむさ苦しい所に入りたいと思わない。唯華に関しては父さんがブチ切れ案件だ。そして俺もちょいキレ案件となる。嫌だぞ、俺は。サッカー部とか野球部の野獣共が唯華と付き合ったりなんてしたら『お兄さん』呼びをされるんだぞ。吐き気を通り越して死ねる。
「じゃ、そろそろ文化部見学に向かうか」
「えぇ、そうですね」
「しゅっぱーつ!」
空になった二人の空き缶を受け取り、自分の缶と一緒にゴミ箱に放り捨て、文化部のある文化棟へと向かった。
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文化棟に着くと、早速、文化部による部活勧誘が始まった。悲しい事に二年であるはずの俺まで新入生と勘違いされ、二年生だと教えると気まずそうな顔されたんだけど、泣いていいですか?分かってはいたけど、辛いのには変わりない。
「・・・しんどい」
勧誘の後。俺たちはせっかく勧誘されたということもあり部室の近い順に見学を始めた。文芸部や手芸部、家庭科部、漫画研究部や新聞部等。正直どの部活もパッとはせず、即入部とまでは唯華と凛花さんはならない。残りは『奉仕部』と『オカルト部』だけとなった。まぁ、オカルト部は見学候補から外しても問題ないだろう。俺はなんてことのない素振りでオカルト部室を通り過ぎようとした瞬間、まるでタイミングを見計らっていたかのように扉が開き、こちらへと手が伸びてきた。いきなりのことにびっくりし、抵抗できずに引きずり込まれる。
「れ、蓮兄!?」
「お兄さん!?」
唯華と凛花さんが慌てて、誘拐された俺を追ってオカルト部室に入ると、扉を封鎖する様に女子生徒二人が現れ、鍵をかけた。俺は遅れて停止していた思考が回復し、引きずり込んできた相手の顔を確認する。
「・・・よ、夜は・・・・アリスさん!?」
夜羽アリス。俺を引きずり込んできた犯人の名前。今日知り合ったばかりのクラスメイトだ。彼女は教室では持っていなかった継ぎ接ぎの垂れ耳長兎のヌイグルミを抱いていた。どうやら彼女もオカルト部の部員のようだ。
「ね、ねぇ…蓮太郎君? ど、どうして…素通りしようとしたの? 教えて…くれる?…ひひっ」
ギリギリと兎のヌイグルミを抱く力を強くしながら、尋ねてくる。彼女の眼からは嘘をついたら許さないという意思が込められている気がして、咄嗟に言葉が出てこない。
「あ、あの…その…ま、迷っただけで…」
無理くりバレバレな嘘を口にするが、当然そんな言葉を真に受けるわけが無い。アリスさんは軽く息を吐いた後、
「う、嘘ついても…ダメ…だよ?廊下の声が…ここの部屋だけ…き、聞こえないと…思った? …ひひっ」
俺の眼を覗き込むように顔を近づけて笑った。なんだろう…このホラーみたいな展開。お化け屋敷は得意な方だが、こういうホラーには耐性がないことが分かった。めちゃくちゃこわい…。
「あ…はい。すみません…でした。正直に…話します…はい」
あまりの怖さにチビりそうになったので素直に謝罪し、オカルト部を避けた理由を白状する事にした。
「そ、そう。オ、オカルトの…知識が無い…から、避け…た…ってこと」
本音はオカルトに一切興味が無いだけなのだが、多少はオブラートに包んだ方が良いだろう。まぁ、これで解放してくれるはずだ。そんな風に思い、安堵する。
「な、なら…教えて…あげる。オ、オカルトの…素晴らしさを。…ひひっ」
・・・そう来たかぁ。まさかの予想してない展開に俺は頭を悩ませる。意外とグイグイ来るタイプのようだ、アリスさんは。面倒臭い人と知り合ってしまったなと後悔。
「も、もちろん…あなた達にも…お、教えてあげる。…ひひっ」
「・・・なっ!?」
「・・・へ?」
アリスさんの発言を予想してなかった唯華と凛花さんが驚く。1人じゃなくて良かった。いっそ俺だけ帰してもらえるとありがたいけど、無理なんだろうな…。
「…なんでこんなことに」
そんな俺達の反応を気にすることも無く、アリスさんは大変嬉しそう(?)に笑顔をうかべた後、扉を封鎖している二人の女子生徒におもてなしの準備を任せる。
「そ、それじゃあ…たくさん…お、お話しして…あげる。…ひひっ」
こうして、アリスさんによるありがたいオカルト講座が始まったのだった。
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