十一話:部活動見学 前編
アリスさんと連絡先を交換した後、二限、三限と授業は進み、気づけば放課後になっていた。今日は、委員決めと今後の授業の進め方などの説明を聞く流れだった為、比較的楽な方だ。既に教室にいたクラスメイトの殆どが部活に励んでいる頃合いだろう。因みに俺は部活に入ってはいないが、まだ校内に残っている。理由としては、唯華と凛花さんの部活動見学の付き添いといった感じだ。その際に、『蓮兄もこの機会に部活入ろうよ!』と唯華に迫られたが、丁重にお断りさせてもらった。今更、部活に入るのはキツイ。ただでさえ、一年の間に友好を深めた同級生達がいるのに、そこにいきなり部外者が入り込むのは無理難題すぎる。コミュ症の俺に出来るとは到底思えない。
「で?なんか気になる部活あるか?」
心底めんどくさい所ではあるが、一応一年早く通っていることもあり、部活の活動場所については二人より詳しいので多少は力になると思う。俺らが通う相堂学園には多種に部活がある為、ソレ関連だけを纏めたパンフが存在している。そのパンフは入学した次の日に貰える為、どんな部活があるのか確かめやすかったりする。ただ問題なのは、場所が載っていてもそこまでの地図が記載されていない点だ。だから新入生は目的の部活動場所を見つけるのに一苦労だ。
「んー。運動系もいいけど、蓮兄は運動嫌いだからなぁ〜」
「はぁ…。俺の事はいいから運動部でもなんでも入ってくれ」
唯華の言葉に溜息をつく。俺は何がなんでも部活に入るつもりは無い。幽霊部員としてなら別に問題ないが、この学校はソレが許されない。ほんと面倒臭い。知り合いのいない中に放り込まれるのがどれだけシンドいことなのか分かって欲しい。
「そろそろ兄離れしてくれ…頼むから」
俺は心の底からそう願う。昔は多少のブラコンも許せたが、高校生にもなって兄離れ出来ないのはアウトだ。仲良し兄妹ってなら、まぁ、分かる。ただ、兄を異性として好きな妹は違う。それは超えてはならない一線。俺から越すことは決してない、例え、唯華が踏み越えてきてもドロップキックで押し返す覚悟は出来ている。
「やっ!私と蓮兄は未来永劫一緒なの!」
「いやいや、俺が今後も独り身だとは限んねえだろ」
「・・・え?結婚するの? 私以外の女と?」
唯華が俺の発言を聞いて驚いた顔をする。それは約束が違うじゃんと言いたげな感じだ。
「寧ろ、俺がお前と結婚すると思ってたのか?」
「・・・嘘だよね?嘘だと言ってよ!蓮兄!!」
「な、おまっ!? しがみつくな!」
俺のズボンにしがみついて泣き始める唯華。この現場を誰かに見られたら『女の子を泣かせたクズ生徒』という最悪レッテルを貼られてしまう。幸い部活時間のため、生徒のほとんどが校内に残ってはいないが、だからといって安全な訳では無い。
「俺が悪いヤツみたいになんだろ。離せって!このバカ!」
グイッと唯華の手を引き剥がそうとするが、全然剥がれない。力強すぎるんだよ…こいつ。ズボンちぎれちまうと思うよ。てか、またシワついたちまった…。母さんからの説教確定だな…これは。自分の不幸ぶりに涙が出そうになる。
「はぁ…。ごめんね、菫さん。バカのせいでなかなか部活見学行けなくってさ」
唯華のせいで放置状態になっていた凛花さんに声をかける。
「あ、いえいえ!大丈夫です! もう慣れましたので!」
「いや、これは慣れない方がいいと思うんだけど・・・」
「まぁ、そろそろ行かないと色んな部活見れないですよね。ゆいゆい、お兄さんに嫌われる前に手を離そう?」
唯華を揺する凛花さん。すると、ズボンを掴む手の力が緩んだ。それを機に引き剥がす。
「えっと、助かったよ。あ、ありがとう」
「いえいえ、困った時はお互い様ですよ!お兄さん!」
凛花さんはそう言うと床に落ちている唯華の鞄を手に取り、歩き始める。相変わらず彼女は優しい人だなと思う。それに比べて唯華は迷惑かけてばかりだ。もう少し人様に迷惑をかけない様になって欲しいものだ。俺も床に落ちた鞄を手に取る。そして、
「さっさと行くぞ、唯華」
「う、うん!蓮兄!!」
そう声をかけて唯華の頭を撫でると、いつもみたいなアホな程に明るい笑顔で元気に返事をする。
「はいはい、そこでイチャついてないで行きますよ。お二人さん」
どうやらその光景を見ていたらしい先に歩いていた凛花さんが俺達をからかう様にそう告げると共に手を掴み、引っ張られるような形で部活見学に向かった。
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