十話:委員決め

始業の時間。刻見先生による今後の予定の話が終わり、自己紹介タイムに突入した。出席番号一番の生徒から次々と名前や趣味といった簡易的な内容を話していく中、眠すぎるあまり殆ど内容が入ってこない。気を抜けば直ぐに寝れる程に眠い。だが、ここで寝てしまうと悪目立ちするに決まっている。俺は仕方なく、ボーッとしていると、気づけば目の前の席に座る神谷幹人とかいう男子生徒の番だった。


「えーと、名前は神谷幹人。趣味はサッカーで、好きなものは辛い系全般。あとはまぁ、友達募集中なんでよろしく!!」


スラスラと言えるのは感心する。俺は自己紹介が嫌いだ。というのも、趣味もなければ好きなものもないからだ。普段やっているゲームは唯華に誘われた時以外は触っていない。殆どテレビをぼーっと見て、後は愛犬・愛猫と共に寝るくらいだ。


「・・・烏杜蓮太郎。趣味は特にありません。好きなものもありません。よろしくお願いします」


淡々と自己紹介を終えて、俺は席に座る。見なくてもわかる。クラスメイトや刻見先生から感じる微妙な空気。ただ、それでいい。平穏に暮らすためにはこれくらい地味な方が楽だ。別にクラスの中心になりたいとは思わないのだから。その後も次々とクラスメイトが自己紹介を行っていき、最後の女子生徒の番となる。


夜羽よはねアリス。趣味はオカルト関連ならなんでも。好きなものも同じ。…ひひっ」


長い黒髪で目元を隠した女子生徒は夜羽アリスと名乗った。


「・・・・」


コミュ症陰キャぼっちな俺でも知っている名前だ。確か、『目を見たら呪われる』とか『いつも呪いの研究をしている』といった馬鹿らしい噂があったからよく覚えている。小学だけでなく高校、どこにだって存在する根も葉もない噂。それは面白ければなんでもいいという馬鹿共が軽はずみで作り上げ、その噂の本人の気持ちを考えないイジメのようなものだ。まぁ、彼女とは接点がそもそも無い為、勝手に同情するのは失礼だろう。触らぬ神に祟りなしってやつだ。


「さて、全員の自己紹介も終えた事ですし、次は委員決めをしたいと思います。まずは学級委員になりたい人、挙手してください」


刻見先生がそう言うと、神谷幹人が手を挙げた。流石はクラスメイト全員と友達になろうと宣言しただけはある。顔もいいし、女子からも男子からも人気だろう。俺みたいな陰キャが立候補でもしたら、誰も一緒にやってはくれないに決まっている。


「他に男子で立候補者はいませんか?」


確認を取るが、神谷幹人以外は誰も手をあげない。これで男子側の学級委員は確定。あとは女子側だけ。


「では、女子で学級委員やりたい人は挙手を」


すると、案の定、殆どの女子生徒が手を挙げた。その光景に、イケメンってすごいなって思いました。


「数が多いので立候補の人達は話し合いをお願いします。その間に他の委員も決めていこうと思います」


刻見先生は黒板に他の委員名を書き記しながら指示を出すと、立候補した女子生徒達は1番後ろの方で話し合いを始める。次々と黒板に記されていく委員名。この高校では嫌でもどれか一つに入らないといけないルールがある。去年は1番暇だった図書委員だった。だから今回も図書委員でいいだろう。それ以外はめんどい。


「図書委員になりたい人は挙手を」


その言葉の後に、俺は手を挙げた。周囲を見た感じ俺以外に男子は手を挙げていない。これで確定だ。相方に関しては誰でもいい。図書委員の仕事なんて無いに等しいため、関わることは無い。


「では、図書委員は烏杜蓮太郎君と夜羽アリスさんで決定します」


どうやら今回の相方は夜羽アリスらしい。なんというか、変な組み合わせだなと思う。まぁ、陽キャじゃないだけマシか。ああいうタイプといるとメンタルがめちゃくちゃ削られていく。理由は簡単。根暗な俺と違って性格の良い奴が多すぎるのだ。見てるだけで眼焼かれるかと思ってしまう。


「それじゃ、次々といきましょう。こういうのはスピーディに終わらせていきましょうね」


刻見先生はそう言うと、次々と委員の立候補を聞いていき、あっという間に全てが決まった。最終的に、学級委員の女子側は、桃髪イケイケ系女子の桃市ももいち夏葉なつはに決定した。さっき、神谷幹人に挨拶していた生徒だ。所で桃色の髪って地毛なんだろうか。そこだけはなんとなく気になる所だ。


「全委員が決まったので、一限はこれにて終了となります。あぁ、それと同じ委員の人達は今日中に連絡手段を得ておいてください」


最後にそう言い残すと刻見先生は教室を後にした。それを皮切りに行動力の早いクラスメイト達は互いの連絡先を交換し始める。因みに俺は席から立つこともせずに絶望していた。理由は連絡先を聞く以前に、異性に話しかける正しい方法が分からない。無理すぎてゲロ吐きそうな件。どうしたものかと頭を悩ませていると、


「ね、ねぇ…これ…私の連絡先。…ひひっ」


不意に俺の視界に継ぎ接ぎのクマぬいぐるみキーホルダーの付いたスマホが映ると共に声が前から聞こえて、椅子から転げ落ちそうになる。


「・・・っす」


俺はスマホを取りだし、夜羽さんのスマホ画面に映し出されているトークアプリのQRコードを読み取り、友達申請を送る。それを確認した彼女は机に置いたスマホを手に取り、申請を許可した。これで、俺のスマホ内に家族以外で二人目の連絡先が登録された。


「そ、それじゃ…これからよろしくね。蓮太郎君。…ひひっ」


「あ…っす。よろしく、夜羽sんぐぅ!?」


急に俺の唇に人差し指を当てて言葉を遮り、


「私のことはアリスって呼んで。夜羽って可愛くなくて嫌いなの。つ、つぎ…その名前で呼んだら…呪うから。…ひひっ」


夜羽…じゃなくてアリスさんはそう言って自分の席に戻っていった。

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