八話:烏杜家 ③

天鐘あまがね市にある巨大ショッピングモール【天鐘あまがねモール】。計五階分のフロアが存在し、一階には食品売り場やフードコート、服屋等があり、二階は書店や靴屋、薬局がある。三階は映画館とゲーセンといった娯楽施設で、四階はスポーツ用品店が多数で、五階は駐車場になっている。


「よーし!天鐘モールに烏杜一家到着!!」


「とうちゃーく!!」


父さんと唯華が両手を上げて叫ぶ姿を見た後、母さんが不思議そうに俺を見てくる。その視線からは『蓮太郎はやらないの?』という意味が込められている気がしてならない。因みにこんな馬鹿な事をするわけが無い。羞恥心というものを知らないのだろうか、あの二人は。


「どんなけ視線送ってきても、言わないからな」


「あらあら、小さい頃はよく言ってたじゃない。ねぇ、燈火さん?」


「ん? あぁ、そうだぞ、蓮太郎!昔はよく父さんの肩の上で瞳キラキラさせながら叫んでたじゃないか。童心忘れべからずだぞ?」


唯華とバンザイしていた父さんが俺の肩をポンっと叩いて笑いかける。心底腹立つのは言うまでもない。俺はその手を振り払って、歩き始める。


「蓮兄〜!待ってよ〜!!」


「おい!蓮太郎!!お父さん達を置いてくとは何事だ!」


「蓮太郎ったら、いつになったら反抗期が終わるのかしら」



後ろから唯華達の声が聞こえるが、振り返る事も愚痴を零すこともしない。それにモール内で、家族と歩いていて周囲から変な目で見られるのはゴメンだ。流石にそこに関しては問題ないと思いたいが、あの人たちだからこそ少し不安だ。


「さて、唯華ちゃんは何が欲しいのかな?」


「う〜ん。可愛い服も欲しいけど、アクセも欲しいなぁ…」


「はっはっはっは!今日は入学祝いなんだし、遠慮なんていらないぞ。ただ、蓮太郎はちょっと遠慮してくれな?」


結局、唯華と父さんに捕獲され、逃げられないよう母さんに手を握られるという恥ずかしプレイを受けている状態の俺は憂鬱な気分のまま服屋へと向かう。高校生にもなって母さんと手を繋ぐ事があるとは思わなかった。この現場に知り合いが来たら最悪だと思うが、よくよく考えたら知り合いと呼べる存在は殆どいないことに気づいた。


「・・・悲しい」


「あら?どうしたの、蓮太郎?」


「いや、なんでもない。それよりも手を離してくれ」


「ダメに決まってるじゃない。そんなに文句言うなら、腕組むわよ?」


「・・・手でお願いします」


「ん。分かればよろしい♪」


脅迫としか思えない腕組みを拒否り、俺は泣く泣く手を握る事を妥協する。流石に母さんと腕組みと言うのは絵面的にアウトだ。マザコンを極めすぎている。俺はシスコンでもファザコンでもマザコンでもない。至ってノーマルだ。


「よぉーし!探索開始だ!唯華隊員!!」


「了解であります!パパ隊長!!」


服屋についてそうそう馬鹿二人が店内へと走り去っていく。その背をついて行かずに俺と母さんも店内へと入る。奥の方から唯華と父さんの騒がしい声が響いてきて、他の人達の迷惑にしかならない。なので俺は他人のフリを決め込む。


「あらあら、あの二人は後でお説教ね」


「・・・母さん。イライラするのはわかるけど、握る力考えてくれ。手が潰れる」


母さんは父さんと同じで笑顔の時が多く、怒っている時も同じ表情の為、外面からは分かりにくい。その為、怒っているのかを確認する時は、手を握る必要がある。力が入っていなければ通常だが、力が入っていれば怒り状態だ。そして今は後者。ちなみに、唯華のゴリラみたいな力は母さんから引き継がれたモノだと俺は思っている。


「あぁ、ごめんなさい。無性に身近なモノを握り潰したい衝動にかられて」


「だからって息子の手を握り潰そうとするなよ」


「仕方ないじゃない。商品に手を出したら捕まっちゃうでしょ?蓮太郎はそれでいいの?」


「・・・良くは無いけど。はぁ…もういいや。好きにしてくれ」


何を言っても無駄だろうし、考える事もめんどくなった俺は諦めることにした。片手が犠牲になったらなったでどうにかなるだろう。多分。


「ふぅ…。落ち着いたし、私がオシャレに無頓着な蓮太郎に服を選んであげるわ」


「オシャレとかそういうのいいって。どうせ似合わないんだから」


「全くもう・・・いつもいつもネガティブな事ばかり言うんだから。偶には燈火さんみたいにポジティブバカみたいなこと言いなさい」


「・・・それだけは死んでも嫌だ」


ポジティブなのはいいことかもしれないが、ポジティブバカとなれば別だ。それに人にはそれぞれ相応の組み分けがされている。明るい性格の人間は日向組で、暗い性格の人間は日陰組。その組み分けは世界のバランスを保つ為に存在するモノだと俺は思っている。そう、イジメっ子とイジメられっ子がいるように、勝ち組と負け組が存在するようにだ。まぁ、イジメは悪なのでその組み分けだけは滅んでもいいと思うが。


「はぁ…。もういいから行くわよ、蓮太郎」


「・・・は?ちょ、まっ」


グイッと腕を組まれ、オマケに不意なこともあり抵抗も出来ずに俺は母さんに引きづられていき、父さん達が戻ってくるまで着せ替え人形と化すのだった。


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