七話:烏杜家 ②

昼食の母さん手作りカレーを食べ終えた後、1度部屋に戻り外着に着替え直す。隣の部屋では同じく外着に着替えている唯華が上機嫌に最近流行りっぽいタイトルまではよく分からない歌を口ずさんでいる。


「おーい!二人とも〜!!準備出来たか?」


1階から俺たちを呼ぶ父さんの声が聞こえてくる。相変わらずよく通る大声だ。 俺は脱いだ部屋着を椅子の背に掛け、部屋の明かりを消す。そして廊下に出るとちょうど唯華も部屋を出てきた。単なる家族でのお買い物だと言うのにしっかりとオシャレしている辺りは女の子の性と言うやつなのだろうか。その反面、俺は無地のシャツにジーンズを履いただけのオシャレなんて無関心スタイルだ。本来ならジャージでも気にしない所だが、家族全員からダメ出しをくらったので外着として使用するのはやめた。


「2人共、お手洗いは済ませた?」


階段を下りると、玄関前で俺達を待っていた母さんが声をかけてくる。


「あぁ、大丈夫」


「私も!!」


「あら、そう。じゃあ家の鍵閉めるから先に燈火さんの車に乗っててくれる?」


俺達は靴を履きながら頷き、先に外に出る。まだ昼頃ということもあり心地よい温かさで、ブルーシートを敷いた上に寝転がったらすぐ寝れるんだろうなぁと思う。それもあり思わず欠伸が漏れる。


「おいおい、蓮太郎。こんな真っ昼間から眠てえのか?ダラしないぞ、若者よ!はっはっはっは!」


「父さんは昼間くらい静かにしてくれ…」


朝から晩まで騒がしい父さんにそう返しながら、車に乗る。ブレーキでも壊れてんのかってくらいテンションが高いというのはどうしても理解し難い。かく言う唯華もその口なのだからシンドい。


「ところで唯華。偶には父さんの隣に座っt」


「蓮兄の隣がいいの!パパはママと一緒!!」


「・・・さいですか」


即座に断られた父さんはしょんぼりとしている。いい歳した大人のこういう姿は情けないなと思う。普段、車に乗る際は俺と唯華が後ろ、母さんと父さんが前に座るのが昔から決まっている。というか唯華曰く『好きな人同士で座るのが我が家のルール!』らしい。なので、父さんと母さんは好き同士で結婚したから一緒に座るとなる。そこまでは俺も理解出来たが、別に両想いではないのに俺の意思無視で唯華の隣に座らされるのは理解出来なかった。ただ、まぁ、一度その事で唯華が泣き喚いたので俺は面倒くさすぎて諦めた。最終的に結論を言うと、誰と座る座らないなんてどうでもいいという事だ。


「ごめんね。おまたせ、みんな」


母さんが少し駆け足でやってきて、車に乗りながら告げる。


「よし、夕陽も乗った事だし、久々の家族ショッピングと行こう!!」


「わぁーい!!」


「あらあら、楽しそうね二人共。それに比べて蓮太郎は相変わらず暗い顔ねえ。ほら、ニィーって笑いなさい」


母さんは俺の方に振り返り、自身の頬を両人差し指で押し上げて笑顔を作る。


「はぁ…。買いもん位で楽しくなれるわけないだろ」


「むぅー。えいっ!」


不意に横から唯華の手が伸びてきて、無理矢理頬を押し上げられる。急な事もあり避けることが出来ず、嫌々ながらも笑顔を作られてしまう。そんな俺の偽笑顔を見た父さんが爆笑し、母さんも口元を押えて笑い声を上げ、唯華に至っては満面笑顔だ。俺は直ぐに手を振り払い、いつもの表情に戻す。


「おいおい、不機嫌な顔するなって、蓮太郎。笑顔ってのは幸せを呼ぶんだぞ?父さんだって笑顔を欠かさなかったから夕陽やかけがえのない愛しの子供おまえ達と出会えたんだ」


「・・・その発言はズルいだろ」


父さんや母さんには感謝している。笑顔が幸せを呼ぶという発言は置いといても、俺や唯華が生まれたのは二人のおかげで、もしもどちらかが違う人だったら俺達は産まれてなかっただろう。だからこそ、そう言われてしまえば反論も無視することも出来ない。


「とまぁ、偶には良い事を言ってみた訳だが、どうだった? 父さんのこと見直したか?蓮太郎?」


・・・その発言がなければカッコよかったんだが。どうして母さんといい父さんといい余計な一言を付け足してしまうのか。


「さぁ、どうだろうな」


「はっはっはっは!素直じゃないな!そう思うだろ?夕陽、唯華ちゃん」


俺の素っ気ない返事を照れ隠しととった父さんは母さんと唯華に同意を求めると、


「あらあら、素直に言わないと伝わるものも伝わらないわよ?蓮太郎」


「まったく蓮兄はツンデレなんだから〜」


思った通り、父さん側についた。分かりきってはいたことだが、納得がいかない。


「・・・はぁ。好きに解釈しろよ」


どう反論しても意味が無いとわかり、俺は大きなため息と共にそう零した。その後も唯華に散々と絡まれたり、父さんが悔し涙を流しながら俺に文句を言ってきたり、それを母さんが止めることなく笑っていたりと面倒臭い目にあっている間に、目的地であるショッピングモールへと到着した。

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