六話:烏杜家
凛花さんと別れた後、少し歩けば烏杜一家が暮らす愛しの一軒家がある。構造的には二階建てで、見た目は綺麗な事もありお高めそうな感じに見えなくもないが別にそんなことは無く、中に入ればごく普通だ。玄関の先に左はリビング、右に2階へと上がる階段、真っ直ぐ行けばトイレでその手前右に風呂場と洗面所があり、手前左は親の寝室がある。そして、2階は物置部屋と俺の部屋と唯華の部屋、トイレがあるだけだ。
「ただいま〜」
「パパ、ママ!たっだいま〜!!」
ガチャと扉を開け、そう声をかける。すると、リビングの扉が勢いよく開かれ、今から仮装大会にでも行くのかと思わせる様なパーティー用帽子に髭メガネをかけてクラッカーを鳴らす
「・・・はぁ。いい歳した大人が昼間っから何やってんだよ…」
「え?なになに!? 今日って誰かの誕生日だっけ??」
呆れる俺とは逆に、唯華は驚いたリアクションをする。
「おいおい、誕生日って、これは唯華ちゃんの入学祝いだよ。お父さん、愛しの娘の為に張り切ったんだぞ!」
「
「ん? そう言えばそうだったな。おめっと、蓮太郎!」
あまりにも雑な父さんの祝いの言葉に更に呆れてしまう。
「あらあら、蓮太郎。ため息つくと幸せが消えるわよ。ただでさえ少ないんだから気をつけないと」
「・・・最後いらないだろ」
「はっはっはっ!夕陽は相変わらず言うことがキツイな!だがそれがいい!!」
「もう…燈火さんったら。近所迷惑になるから口を閉じてくれるかしら」
「ん?それもそうだな!以後気をつけよう!」
目の前で繰り広げられる夫婦漫才。いつも二人ともこんな感じで外に出るのが恥ずかしかったりする。それにホントに二人の子供かと近所の人やらに言われるのは気持ち悪いし嫌気がさす。
「ほら、唯華。ずっと停止してねえでお礼言っとけ」
ペシッと頭を軽く叩くと止まっていたロボットが動き出すような反応をした後、
「パパ、ママ!ありがとう!!」
いつもの笑顔でお礼を告げる。それに対し、父さんは感涙し、母さんも嬉しそうに微笑む。
「よし!それじゃあ今日の昼ご飯はお父さんが愛をたっぷり込めた夕陽手作りカレーを食べようじゃないか!」
「そこは父さん手作りじゃないのかよ」
「はっはっはっ!蓮太郎はバカだなぁ。お父さんが料理出来るわけないだろ。大丈夫か?」
腹立つ程のドヤ顔で父さんは告げる。昔から父さんは自分の苦手な事をドヤ顔で自信満々に言ってくるから意味が分からない。こういう変な所でポジティブな点は唯華に引き継がれているから、困っている。
「ほんとこのポジティブさを蓮太郎にも遺伝して欲しかったわ。目付きの死に具合は似てるのにどこで間違えたのかしら?」
「知らねえよ、んなもん。てか、父さんみたいなポジティブバカになりたくなかったし、これで満足だっての」
俺は靴を脱ぎ捨てて、そのまま二階へと続く階段を上がっていく。その背後から、「あ!こら!蓮太郎!!誰がポジティブバカだ!ポジティブイケメンと呼べ!」と馬鹿馬鹿しい父さんの言葉が聞こえたが、無視する。相手するのも無駄だし、とにかく疲れる。
「はぁ…眠い」
トイレ横にある母さん作の『蓮ちゃんの部屋』と書かれたボードが掛けられた一室の扉を開けて、荷物を床に放り、クローゼットを開ける。そして、制服にシワが付かないようにハンガーにかけ、部屋着に着替える。
「あー、動きたくねえ・・・」
ベッドに寝転がりながら呟く。誰でもある事だと思うが、一度ふかふかのベッドに寝転がるとあまりの気持ち良い感覚に全身をやられ動きたくなるはずだ。特に疲労があるときに一番効く。なので、ベッドから動きたくない。このまま眠りにつこうかと瞼を閉じた瞬間、扉が勢いよく開け放たれた。
「蓮兄!!カレー食べよ!!」
唯華の無駄に元気な声と共に。
「はぁ…うっせえな。家でぐらい大人しくしてろよ、お前は」
そう文句を言いつつも、面倒臭いながらベッドから起き上がる。どうせ抵抗した所で無理矢理連れていかれるのだから、無駄にエネルギーを消費する必要は無い。というか、疲れと痛みはゴメンである。
「あ、そうえば蓮兄」
「--ん?」
唯華と共に階段を降りていると、ふと声をかけられる。
「パパとママがカレー食べた後に入学と進学祝いのプレゼント買いに行くよ、だって」
「いやいや、入学祝いならまだしも進学祝いって・・・意味わかんねぇ」
何かと祝おうとする両親にはうんざりである。そもそも進学なんて学生として当然の事だ。普通に学校に通い、テストで赤点を取らなければいいのだから、楽勝もんだろう。まだ友人作りの方が難易度が高い。
「因みに、何がなんでも連れてくから諦めろ、ってパパが言ってた」
「・・・はぁ。分かったよ」
俺は観念する。父さんがそう言う時は絶対にどんな手を使ってでも俺を外に連れ出す。部屋の鍵を閉めても窓から声をかけてきたり、スマホに電話やメールを連投してきたり、入浴中や勉強中どんな時でも声をかけてくるのだから、面倒いし恥ずかしいしで結局諦めて外に連れていかれるのだ。その頑張りを他のことに使って欲しい。
「やったぁ!!家族みんなでお出かけ楽しみ!」
唯華は太陽のように明るい笑顔を浮かべて、バンザイする。なんというか思わず笑ってしまう。
「--ぷっ」
「あ!蓮兄笑った!」
「あんまりにもお前がガキっぽくて、ついな」
口元を手で押さえても笑い声は止まらない。そんな俺の体を叩きながら唯華はご立腹だ。
「もう!後でパパとママに言いつけるもん!」
「はいはい、悪かったって」
俺はご立腹な唯華を宥めながら、リビングへと向かうのだった。
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