四話:神谷幹人 ②
長い長い校長の話や在校生代表と新入生代表の挨拶といった面倒だらけの入学式が終わり、C教室に戻った俺とクラスメイト達は刻見先生による二年生ガイダンスの説明を受けていた。といっても一年次とだいたい同じ内容なので聞き流す生徒がほとんどで、俺もその一人だ。
「とまぁ、詳しい説明はこんなものですかね。後は各自で確認しておいて下さい。では、今日はこれにて終わりとなります。皆さん、また明日会いましょう」
刻見先生はガイダンス用のプリントをファイルにしまいながらそう告げて、教室を後にした。それを確認したクラスメイト達は新しい友達を作り始めたり、一年次からの友達と遊びに行ったり、そそくさとソロ帰宅したりとバラバラだ。ちなみに俺もそそくさとソロ帰宅する組だったりする。と言うよりも選択肢がそれ以外に見当たらない。
「・・・ぁ?」
帰り支度をしているとズボンのポッケに押し込んでいたスマホが振動した。俺はどうせ唯華からだろうとスマホを取りだして画面を確認すると、そこには凛花さんからの着信が来ていた。家族や通販以外からの着信は初めての事もあり、スマホを持つ手が固まる。問題は他にもある。こんな陰キャな俺が女の子と電話してる場面をクラスメイト達に見られたらどんな目で見られてしまうか…。同級生ならまだしも新入生。二年が初日に知り合える可能性はゼロに近い。然し、無視は人としてダメだ。
「・・・よし」
俺は周囲を見渡し、クラスメイト達がほとんど居なくなったのを確認した後、電話に出る。すると、
『あ、もしもし。お兄さん?』
凛花さんの声が耳元で聞こえてきた。思わず変な声が出そうになったが何とか堪えて返事をする。
「あ、あぁ。急に連絡なんてどうかした?」
『えっと…ゆいゆいが自己紹介の時にお兄さんの事について色々と話していて…一年生の中で『二年のカッコイイお兄さん』っていう噂が広まってしまったので一応連絡をと…』
凛花さんは何故か申し訳なさそうな声で告げる。どう考えても唯華が悪いのに優しい子だなと思う。まぁ、だいたい唯華が俺に対して面倒事を持ち込んでくるのは分かってはいたが、流石にソレは予想外だ。寄りにもよって『二年のカッコイイお兄さん』なんていう勘違い甚だしい内容だ。違ったら違ったで唯華が泣いて面倒いし、バレないように振舞った所で俺のメンタルがすり減るし、そもそも即ボロが出ておしまいだ。
「えっと…自己紹介でって話だけど、なんでそうなったんだ?」
まずはきっかけを知ることが大切だ。あのバカも自己紹介でいきなり全く関係ないことを話すとは思えない。あれでも一応常識はある方だと思う。
『それがですね…自己紹介の時に最初の人が好きな異性のタイプを言うって流れをつくりまして…。で、でも、もちろん!みんな真面目に答えなかったんです。だけど…ゆいゆいは』
「真面目に答えた…と」
『は、はい…』
俺は大きくため息をつく。昔から唯華は『好きな異性のタイプ』を聞かれる度に俺の事をあげていた。互いに血の繋がっていない他人であればそれはそれでいいかもしれないが、俺と唯華は正真正銘の血の繋がった兄妹だ。そんな想像するだけで鳥肌がたってしまうような実は義妹でした設定も兄弟同士の恋愛展開もクソくらえだ。俺と唯華は単なる仲がいい訳でも仲が悪い訳でもないどこにでもいる兄妹だ。
「あーっと、そうか。教えてくれてありがとう。後のことはこっちでなんとかするよ」
『は、はい!それじゃ、失礼します!』
凛花さんが通話を切るのを待ってから俺も切り、スマホをしまう。そして明日からどうしようかと頭を悩ませていると、
「あれ? まだ帰ってなかったのか?蓮太郎」
ガララッと教室の扉が開き、列を作る際に助けてくれた男子生徒の声が聞こえた。俺はいきなりの事で椅子から転げ落ちそうになる。それでも平然を装いながら俺は視線を合わせずに首肯だけする。
「ん、そっか。俺は今から帰るとこなんだけど、お前はまだ残ってんのか?」
馴れ馴れしく話しかけてくる男子生徒に嫌気がさす。早く帰ってくれないだろうか。てか俺が何時に帰ろうが自由だろ。なんで見ず知らずの奴に教えなくてはいけないのか。ただ、まぁ…質問されて答えないのは最低だと両親から叩き込まれた性だろうか。
「あっ、いや。…帰る」
緊張ガチガチで答える。そんな緊張中の俺の様子を知ってか知らずかその男子生徒は自身の荷物を手にしながら、
「じゃあ、鍵は俺が閉めとくから先に出ていいぞ」
そう告げた。気を使ってくれたのだろうか?なんか優しい人っぽいが関わることはこれから先ない。ただ、お礼は大事だ。
「えっと…その、あ・・・す」
あざっす、と言うつもりが緊張のあまり最初と最後の部分以外はかき消えた気がするけど恥ずかしいので気にしないでおく。
「おう!あ、名前言ってなかったわ。俺、神谷幹人!また明日からよろしくな!蓮太郎!!」
俺が教室を出ていくタイミングで男子生徒はそう名乗った。こういう時、普通の人ならどう返すのか?そんな経験のない俺はただ手を振るだけだった。
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