二話:菫凛花 ②
通学路の道中、俺達は互いの事を多少は知ることが出来た。まぁ、主に唯華と凛花さんによる会話の中からな訳で、俺からは何も言っていない。別に盗み聞きをしていた訳ではなく、唯華が俺の情報も教えていたので言う事が無かっただけである。決して聞き耳を立てるような事はしない。とりあえず凛花さんについてはこんな感じでまとめてみた。
①趣味はネコカフェに通うこと。
②苦手な事はスポーツ。
③好きな異性のタイプは優しくて気遣いのできる人。
④誕生日は1月9日。
後はまぁ、スリーサイズに関しては唯華が悪ふざけで聞いたもので、俺は決して聞いていない。というか凛花さんも男性のいる前でそんな恥ずかしい事を言えるわけが無いため、唯華の耳元でこしょこしょと教えていた。べ、別にスリーサイズを知りたかったって思ってないんだからね!
「と、そんなことは置いといてだ。なぜ、お前は俺の腕をずっと掴んでる?」
陰キャぼっちお得意の1人モノローグをやめた俺は、凛花さんと手を繋ぎながらも俺の腕をもう片手で掴む唯華に声をかける。それに対し、極々当たり前のように唯華は答える。
「え?捕まえてないと蓮兄どっか行くでしょ?」
「・・・」
流石は俺の妹だ。兄の事を分かってらっしゃる。俺は元から影が薄い為に、その場からスゥッと気づかれずに逃げる事が得意だったりする。今回も同じように、唯華と凛花さんが楽しく談笑してる間にこっそりと学校へと向かうつもりだった。然し、俺の妹はそんなことお見通しだったらしい。こうなった以上は一人通学は無理のようだ。
「・・・好きにしろ」
降参とばかりに俺はため息をついて、唯華に腕を掴まれたまま学校へと向かうことにした。それにしても朝っぱらから、どいつもこいつも元気すぎやしないだろうか。唯華や凛花さんの様に新入生なら元気でも分かるが、二年以降の奴らが元気なのは意味が分からない。時折、恐らく男共の『二人めっちゃ可愛くね?誰か声掛けてこいよ』やら『じゃあ俺が声掛けてこようかな!』なんて内容の発言が周囲から聞こえてくる。正直、可愛いとか声かけるとかは好きにしてくれたらいんだが、俺の存在消されてない? どう見ても唯華と凛花さんは俺と歩いてるよね?何で声掛けに来れるの?え?俺だけ見えてない?陰キャは存在自体が認識されてないって事っすか?
「ハハハ…おうち帰りたい」
「ん?急にどうしたの、蓮兄?」
「何かありましたか?お兄さん」
無意識に零していた悲しみの言葉に、唯華と凛花さんが気にかけてきた。正直、今の俺にそれは効くからやめていただきたい。優しくしないで!悲しくなるから!
「あ、いや。なんでもない」
素直に慰められるのは恥ずかしい。なので俺はそういうモノは受け取らないように平気なフリをする。まぁ、本音を言うと恩を返すのが嫌なだけだ。だって面倒いじゃん。貸し借りとか1番悪い文明だと俺は思う。さっさとそんなもん滅べ。見返り求めずに助けてこそ100パーセントの善意であり、見返りを求めたらそこに善意は1パーセントもない。
「ん〜、蓮兄がそう言うなら問題なし!」
「そうですか。分かりました、お兄さん」
唯華と凛花さんは、ほぅっと安堵の息を吐いた後、再び楽しそうに会話を始める。これで恩を返す羽目にならなくて済んだ。まぁ、問題は男共が唯華達に声をかけてくるかもしれないという事だ。さて、どうしたものかと考えていると、
「あ!そうだ! りんりん!私と蓮兄と連絡先交換しよ!」
唯華が急にそんな事を告げた。いきなりの事でびっくりはしたが名案だ。本当であれば連絡先交換なぞごめんだが、今回は仕方ない。あんなチャラチャラした奴らを唯華と凛花さんに近づけさせない。単になんか気に食わんという理由であって、変な気持ちは一切ない。まぁ、強いて言うなら唯華に関しては父さんがうるさそうだし、凛花さんもなんか両親が厳しそうなイメージがある。てか絶対にあんなチャラチャラした奴らとつるむのは人生の大幅な損にしかならないと俺は思っている。
「あ、あの、私の連絡先なんかでよければ…」
凛花さんは嬉しそうにスマホを取り出す。俺もスマホを出そうとポケットを漁ろうとするが、どうやら既に唯華が拝借していたらしい。なんとも行動の早い妹だ。だとしてもスマホのロックパスまで把握しているのはやめていただきたい。そんな手際よくロック解除するのは日頃の賜物ですか?
「えっと、これをこうして・・・うん!出来た!」
「あ、きた!後はこのふたつを承認して…出来ました!」
唯華が俺と自分の垢を教えて、凛花さんがその垢を承認する。これで俺達は互いに連絡する事が可能となった。よくよく考えたら、俺の連絡先に初めて女の子が追加された気がする。家族以外初である。因みに中学時代に唯華にぶち込まれたクラスメイトや後輩等の連絡先は卒業と同時に削除済みだ。持ってても話すことは無いので必要が無かったのだ。おかげで卒業後のクラス旅行に呼ばれていない。知らなきゃ幸せだったが、唯華が教えてきたのだった。余計なお世話である。
「はい!蓮兄!!」
「お、おう」
またまたぼっちお得意の上の空になっていたらしい。俺は唯華からスマホを受け取り、ポケットに押し込む。ちょっと嬉しいのは嘘だと思いたい。そんな事よりもこれで周囲の男共は声をかけてこないだろうとチラッと見てみると案の定、俺をひと睨みしてさっさと学校へと向かっていった。敵を作ってしまったことは痛いが気にしていてはキリがない。なんだかんだ小・中と唯華狙いの男共から嫌われていた気もしなくもないからだ。
「まぁ、結果オーライってやつかな」
俺は唯華と凛花さんの会話光景を横目にそう呟いた。
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