青春記録ページ1
一話:菫凛花 ①
日陰組と日向組。この世に生まれた限り、人はどちらかに区別される。ちなみに俺は日陰組で、それは高校二年になっても変わらない。だけどそれでいい。友達が沢山いる人やカップルを見ても腹が立たないし羨ましいとも思わない。一人の時間。平穏で静かで自由というメリットしかないのだから自ら手放そうとは思わない。まぁ、どうしてもと言う場合は考えなくもないけど。
「蓮兄!さっきからブツブツと何呟いてるの?」
ふと、俺の耳に妹の唯華の声が聞こえてくる。あまり話したくないし関わりたくないのだが、無視すると後々めんどい事もあり、唯華に視線を動かす。
「何でもねえよ。・・・てか一人で学校行けって言っただろ」
仲睦まじい兄妹関係なんてものは俺と唯華には無い。だから今みたいに兄弟仲良く登校なんてのはゴメンだ。昔からグイグイと懐いてくる唯華には嫌気が差して仕方がない。小・中とベッタリしてきて、どれだけ変な目で見られてきた事か。何度も言うが俺は平穏が好きで、騒がしいのは却下。だと言うのに、騒がしい代表ともとれる唯華のせいで俺の学園生活に平穏は訪れてこない。
「え~、なんでダメなの?? 」
「なんでって…ダメなもんはダメなんだよ」
俺の腕を掴んで上目遣いで尋ねてくる唯華の頭をグイッと押して引き剥がそうとする。学校やらで可愛い可愛いとおだてられるほどの顔立ちをしてるからって上目遣いしてこようが妹にドキドキする兄だと思うなよ。それにしても相変わらず力強いのはなんでだろうか。痛いからやめていただきたいのだが。
「さっさと腕を離せ!バカ妹!」
「いやっ!!蓮兄がこれからも一緒に登校してくれるって約束するまで離さないから!」
俺の腕を掴む唯華が離されまいと更に力を込めてくる。その度に腕が悲鳴を上げる。流石に大好きな兄だと豪語するなら、もう少し力加減をどうにかして貰えないだろうか。俺はクッションやヌイグルミの様に抱きしめられたり締めあげられたりする為に生まれた訳では無いのだが。
「あーもう!!分かったから、さっさと離せ!!」
痛みのあまりなりふり構ってられなくなった俺は妹の願いを叶えることにした。腕が機能停止になる位なら、このバカ妹と毎日登校する方がマシだ。
「え?ほ、ほんと?! その場しのぎの嘘じゃない?!」
パッと俺の腕を離した唯華が瞳をキラキラさせ、興奮で顔を赤くしながら早口でまくしたててくる。あまりの勢いにひきつった笑みを浮かべながら、首を縦に何度も振る。
「やったぁ!蓮兄と毎日登校デート!うっれしいなぁ!ふんふふ~ん♪」
上機嫌でウキウキと歩き始める唯華。その姿は小さい頃と余り変わらない。何か悲しい事や辛い事がある度に俺に泣きついてきて、少ししたら笑顔になる。ほんと妹というのはよく分からない。ただ、腕を解放して貰えたのは何よりも救いだから、今回は大目に見てやろう。
「はぁ…。唯華。上機嫌にクルクル回ってるとぶつかるぞ」
ルンルン歩きからクルクル回る動きに移行した唯華を注意する。まだルンルン歩きは許容出来たが、クルクル回るのは周囲から変な目で見られるし、怪我の恐れがあるため見過ごすことはできない。特にアイツが怪我してしまうと大泣きするのは父さんで泣き止むまで、何度も何度も「お前がちゃんと見てないからだ!」と叱られるのでめんどい。
「もー!蓮兄は心配症だな~!今日から私も高校せ・・・!?」
「・・え!?」
そして案の定、唯華はちょうど死角となっている右の道から歩いてきた誰かと激突した。
「はぁ…。だから危ないって言っただろ」
俺はため息をついた後、唯華達の元に駆け寄る。
「いたたた…。蓮兄ぃぃ~!頭痛いよ~!!」
「う、う~ん?」
運悪く頭を打ったらしい唯華が涙目で俺に助けを求めてくる。それとバカ妹に激突された見覚えのない誰かが痛みで少し混乱しているのか小さく唸っている。どうやらその誰かさんは唯華と同じ相堂学園の新入生のようだ。理由は制服の右胸に付けられたギリシャ数字の『I』が唯華と同じものだったから。俺達が通う相堂学園はギリシャ関連の学校では無いのだが、理事長が「ギリシャ数字カッコよくね?」っていう発言でこうなったという噂がある。
「えーと、その~、うちの妹が申し訳ない。怪我とかしてない?」
「・・・あ、はい!だ、大丈夫です!?」
後々面倒事にされたら平穏ライフが無くなってしまうため、今のうちに最小限に抑えておきたいという一心で声をかけておく。決して彼女に下心もましてや興味もない。寧ろ、今後は一切関わりたくないというより関わることは無いはずだ。
「そっか。安心したよ。それじゃ、またね」
俺は未だにギャーギャー喚く唯華を担ぎ上げて、その場を立ち去ろうとすると、制服をグイッと後ろから引っ張られた。まだ用があるのかと、心の底で大きなため息をついて、振り返る。何を言われても即答してその場から離れようと決めて。
「えーっと、やっぱ怪我しちゃってた?」
面倒臭いと思いつつも周囲の目が気になる系の陰キャの俺はなるべく敵は作らない派である。よって、スルーしたりキレたり不機嫌な気持ちを表には出さないようにしている。
「あ、あの…その…」
さっきはちゃんと女子生徒の姿を見ていなかったが、意外と可愛い部類系の感じだ。黒髪ロングが美しい清楚系というやつだろうか。なんというか陰キャとも陽キャとも言い難い箱入り娘のような。説明は苦手なのでとりあえず唯華と釣り合うくらいには顔立ちが整っている。
「むむむ!? 唯華センサーがビビっときた!これは恋敵出現の展開!!」
担ぎあげられた状態の唯華が両人差し指をアンテナのように伸ばしながらアホな事を叫んできた。
「・・・は?」
「・・・ひぃう!?」
またバカなことをと呆れる俺に対し、過剰に驚きの反応を示す女子生徒。
「すまん、このバカの発言は気にしないでくれ。えーっと…」
そういえば名前を知らない。まぁ、知りたいとは思っていないが、成り行き的なのもある。だけど俺から名前を尋ねることは一切しません!!ナンパとか狙ってるとか思われたくないからね!と、意味のわからん誰に対しての言い訳なのか不明であるが言っておかないといけない気がした。
「あ、す、すみません!自己紹介がまだでした!」
何となく察してくれたらしい彼女は一度深呼吸して落ち着いた後、
「はじめまして。この度、相堂学園に入学させていただきました。
と告げて微笑んだ。
「私は烏杜唯華!ゆいゆいって呼んでね!よろしく!りんりん!!」
担ぎ上げられた状態の唯華が手をブンブンと振りながら、馴れ馴れしく彼女に渾名呼びをする。なんていうか命知らずというか、ただのバカというか。ただ、名乗られた以上は名乗るのが義理というものだろう。例え、というか今後一切関わることは無いだろうではなく絶対関わらないと決めてはいるが仕方ない。
「えっと…烏杜蓮太郎。一応コイツの兄です。よろしく…り…菫さん」
流石に下の名前で呼ぶのは馴れ馴れしいなと思い、俺は苗字呼びに切り替えた。
「はい!よろしくお願いします!!ゆいゆいとお兄さん!!」
凛花さんは元気よく頭を下げた。年下の女の子に『お兄さん』呼びされるのは悪くないなと思いつつも面倒臭いことになったなと思う。こんなの今後も関わる展開間違いなしだ。心の底からやめていただきたい。だけど、悲しいかな。小・中と唯華のせいで平穏を奪われてきた経験上、高校でもそれは不可能。
「よーし!これで、りんりんと私達は友達!!ってことで共に登校しようじゃないか!!」
コレである。唯華は俺の気持ちなんて気にしない。やりたい事はやりたい時に。思い立ったら即行動。我が妹の長所であり短所だ。こうなったら拒んでも無理だなと分かっている俺は、ただただため息をついて、唯華を下ろす。すると、直ぐに凛花さんの手を掴んで走り始めた。
「ほらほら!蓮兄も!はやく!はやく!」
「…はぁ。分かったから、前見て走れ」
手招きしてくる唯華にそう応じて、俺は少し駆け足で2人の背を追いかけるのだった。
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