ブラコン妹が俺の学園ラブコメを成り立たせている

雪鵠夕璃

プロローグ


俺、烏杜からすもり蓮太郎れんたろうは青春勝ち組枠からハブられた日陰者。いわゆる陰キャと言う奴だ。残念な事に、小学生の頃から他人と馴染むことが出来ず、高校生になっても友達は0人。最初の頃は、友達100人作れるかなとか、友達と買い食いやカラオケ、ゲーセンに寄り道なんて期待したさ。でも、現実というのは老若男女問わず残酷なものらしい。初日の自己紹介で、クラスメイトとのファーストコンタクトで1度でも失敗してしまえば、ぼっちルート確定である。そして俺は物の見事に失敗したというわけだ。


「まぁ、ひとりが辛いってわけじゃないし」


誰に言ってるのかも分からない何度目かの強がり発言を通学路で一人悲しくそう零す。ガヤガヤワイワイと同じ様に通学路を歩く学生達は皆楽しそうに歩いている。きっと俺くらいだろう。まるで俺の歩いている領域だけ影が差している様に感じるのは。だって、それを肯定するかのように、俺のすぐ近くを歩く人はいない。否、今はいないのだ。チラッと腕時計で時間を確認して、顔を引きつらせる。というのも--


「…もうこんな時間って事は…あいつが来r」


ドスッという音が似合うレベルの衝撃が突然背中を襲った。俺はマトモに受け身も取れずに目の前の電柱に(地面じゃなくて幸いと言えるのか定かではないが)激突する。そんな可哀想な俺の様子を気にもとめず、背中に突撃してきた相手は、


蓮兄れんにい!!もう!また可愛い妹を置いて先に行くなんて!!」


我が妹、烏杜からすもり唯華ゆいか。彼女は両腕をみぞおち辺りにホールドさせ、お怒りである。正直に言って何故怒られないといけないのか全く分からない。怒りたいのはこっちの方だ。


「…あのなぁ、毎度毎度お前と通学すると、目立ち過ぎて嫌なんだよ」


何度も言うが俺は平穏を好む。なので目立つなんて事は御免こうむる。てか、力強すぎて腕振り解けないんだが??え?怪力過ぎない?これで【向日葵姫ひまわりひめ】って男子陣から呼ばれてるとか嘘だろ…。姫と言うよりゴリラだよ。まぁ、単純に俺の力が弱すぎるのだろう。だって平穏を好むからって理由で運動部に入らず帰宅部だし。


「え?え? み、みんな蓮兄と私が素敵なカップルに見えてるの!? う、嘘でしょ!? まぁ、私と蓮兄がお似合いカップルなのは当たり前だもんね!」


「・・・は?」


意味不明な発言に呆れてしまう。どう考えたらそんな答えに行き着くのか。我が妹の思考回路が読み取れない。目立つのは完全にお前が原因なのだが。だって、俺が高一の頃なんて全く存在に気づかれなかったからな?あれ?なんか自分で言っておいてなんだけど…死にたくなってきた。


「…無理。しんどい。帰りたい」


勘違いも甚だしいバカタレ妹の様子に今日も平穏が遠のくのを察し、肩を落とす。


「あ、ゆいゆい!…と、お兄さん」


「おはよぉー!りんりん!!」


不意に第三者の声が聞こえて、妹がその主に手を振る。因みに俺は振り返ることなんてしない。反応を示した所でろくな目に合わない。だけど、悲しいかな。


「もう!蓮兄!!ちゃんと、りんりんに挨拶返さなきゃダメでしょ!!」


「…ぐえっ!?」


運動神経抜群の我が妹の跳躍力により制服の襟を引っ掴まれ、潰れたカエルのような情けない声をあげる。このまま無視すればいいけど、苦しいのも痛いのも嫌いなので諦めて、声のした方に顔を向ける。


「えっと…、お、おはよう。すみれさん」


「あ、はい!おはようございます!お兄さん!!」


俺のぎこちない挨拶に元気よく挨拶を返してくれる唯華の友達、すみれ凛花りんかさん。俺や妹と同じ相堂学園に通う高校一年生だ。それもあり、服装は相堂の校章が胸に付けられた紺色の制服に身を包んでいる。話によれば、凛花さんも妹と同じ位目立つしモテるらしい。俺とは違い、日向に生きる者。


「…眩しい」


俺は2人には聞こえないような小さい声でボソリと呟く。なぜ俺のような日陰者に対して、妹は考えるまでもないが、凛花さんは優しく微笑んでくれるのか。いささか疑問だ。しかし、それよりも驚きなのは--


「お、やっと来たか!!蓮太郎!それにおまけ二人」


元気があまりにもよすぎる活発な大声が俺達の少し前から聞こえてきた。その声の主は、何故か俺と友達になろうとしてくるイケメン、神谷かみや幹人みきひと。美少女二人をオマケ扱いするような変わった奴だ。


「あ、お、おはよう。幹人…君」


相変わらずぎこちのない笑みと挨拶に、幹人君は気にした様子もなく、「おう、おはよ!」と軽く手を挙げて俺達の元に駆け寄り、歩き始める。こんなクソ陰キャな俺に不釣り合いな陽キャ二人組と仲良くなる機会なんて存在しない。


しかし、どれだけ否定してもこの揺ぎ用のない事実は変わらない。


先ずは俺がどのようにして、凛花さんと幹人君に出会ったのかを話していこうと思う。


出会いの日は、高校二年生に進学した春まで遡る。

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