第2話 HPに極振りしました②

「う……ここは?」


 目が覚めると、そこは何処か知らない牢屋の中だった。


「そうか………あのくそ女神、俺を囚人として転生させやがったのか。」


 こんな薄気味悪い牢屋スタートとはな。アイツなりの配慮なのか、既に人化は完了しているようだ。


「え〜と、ステータスを確認っと。」


ステータス

個体名:コウキ

種族名:メタルスライムLV1

 魔法:魔力測定LV1

 技能:『神眼』『能力改変』『人化』

 戦闘:改悪LV1 改良LV1 全鑑定LV1 空間起動LV1

 加護:終末の加護・第一邪神の加護

HP:10/10

MP:300/300

攻撃力:20

防御力:1000

敏捷:700

知力:100

運気:100



「これは酷いな………HPが異様に低いのに対して、防御力のスペックが高すぎる。」


 この世界では、クリティカル補正なるものが存在するらしい。

 つまりは、防御力を完全に無視した貫通攻撃………


「俺ってクリティカル一撃で死ぬのかよ。能力改変のスキル無かったらマジで詰んでたじゃん。」


 スキルを行使する。

 

 目の前の透明なボードから、数値を移行する。


「まずは敏捷………こんなに高くなくていいな。ついでに攻撃力にも割り振ろう。」


 HPを510、攻撃力を120まで上昇させた。

 これでクリティカル一発なら耐えられるだろう。


「まずはこの牢を脱獄することから考えないとな。見張りがいないとも限らない。」


 俺が何かした訳では無いが、捕まっていることに変わりは無い。早いとこ抜け出そう。


「この鎖の耐久は………〝全鑑定〟」


 耐久力は500か。なんとか俺の防御力の方が上だったな。


「攻撃力が120だから、俺が五、六回殴れば壊れるのか?」


 全力で鎖を殴りつける。

 防御力が1000もあるせいで、全く痛くも痒くも無い。


「案外いけるな経験値モンスター………」


 バキバキ……


 何度も殴りつけたためか、鎖が粉々に砕け散る。俺の攻撃に耐えきれなかったのだろう。


「後は牢から逃げるだけだな。

 流石に鉄格子を破壊ってのは無理がある。」


 耐久力は見たところ1200………破壊出来なくは無いが、俺の方が防御力が低い分、何が起きるかわからない。


「いや待てよ……一時的に防御力を1200以上にすればいいじゃないか!!

 俺には能力改変のスキルがある。」


 MPを防御力に振り分ける。一気に防御力が1300へと上昇する。


「おら……っ!!!」


 助走をつけて鉄格子へとドロップキックをお見舞いする。


 ガシャン……


「なんとか破壊出来たな。流石に粉々に、とまではいかないが。」


 俺の蹴り飛ばした場所だけに穴が空いている。俺がくぐり抜けてきた所だろうか。


「まぁなんにせよ、早く逃げなくちゃな………いくら能力改変できるにしても限度がある。」

 

 空間起動にて、建物内を調べる。


「入り口に二人だけか?緩々の監視だな。」


 腐っても俺は経験値モンスターだぞ?それなりに貴重な存在の筈なんだが。


「まぁ俺としては逃げやすくなるから全然嬉しいんだけども。」



***


「まさかコイツら………眠っているのか!?」


 監視の男と二人、普通の顔をして眠っている。仕事中とは思えないほど気持ちよさそうに。


「立ちながら眠っているのも凄いが、本当にてきとうな牢屋だな。」


 おそらく世界一緩い牢屋だろう………監視が二人、それも眠っているだけ。

 もしかして逃げられても困らないのか?


「まぁ何にせよさっさと立ち去るか。俺がこれ以上此処にいる理由も無いからな。」


 監視の横を堂々と通り抜ける。

 気配を察知して襲い掛かっても来ないとは。


「外は普通の草原か………こんな所にポツンと一軒って。なんとも雑な牢屋だ。」


 敏捷に防御力を振り分けて走りだす。

 かなりのスピードを出しながら草原を駆け抜ける。


「風が気持ちいいな。」


 前世で死んで、滅茶苦茶な世界に転生させられるのかのかと怯えてはいたが。


「この世界なら俺もやり直せるかもな。今度こそ自由に生きよう。」


 この世界の魔族には階級があり、魔王が一番上で、その下に幹部が存在する。


「とりあえずの目標は、魔王の幹部だな。あの神が生み出したとか言う魔王は、多分最強クラス。」


 転生したての俺が安易と勝てるような存在では無いだろう。

 出来れば争いも避けたい。


「そうと決まればまずはレベルアップだな。どこかに手頃なモンスターは──────」


(な……っ!!)


 草原のど真ん中で急停止する。

 別にモンスターを探すためではなく、何かにぶつかりそうになったからだ。


「〝全鑑定〟………」


ステータス

 種族名:キングスライムLV520

HP:3000

MP:1000

攻撃力:5000

防御力:10

敏捷:10

知力:400



「やべぇな………攻撃力5000て。」


 初戦闘でまさかのボス級と出会うとは………LV520って、この世界のパワーバランスおかしく無いか?


「一撃でも動かれたら即死だな。〝改悪〟」


 キングスライムより俺の方が速いため、背後に回ってさりげなくステータスを改変する。


「防御と敏捷を1にまで下げて、これで後は俺がサンドバックにすれば!!」


 刹那

 

 キングスライムの敏捷では知覚できない程の速度で殴りつける。

 速度が乗った拳は、やはりそれなりの威力を発揮する。


「ピギャァアアァァ!!!!」


(痛そうだな……凄い叫び声。)


 HPが一気に減少している。俺の攻撃力は改変により500

 一撃で6分の1も削れるのだ。


「後は殴るだけだ!!

 打打打打打!!」


 キングスライムの肉体がぺちゃんこになる。俺の攻撃でボロボロだ。


「あばよ………」


 最後に核らしき石に渾身の一撃をお見舞いする。


「ピシュー………」


 今度は叫ぶことすら出来ずにドロドロに溶けていく。死んだのだろうか?


《経験値が一定に達しました。レベルが100上昇します。》

《レベルの上昇に伴い、ステータスポイントが8000配布されました。》

《キングスライム討伐に伴い、ドロップアイテムとして『愚者の指輪』『魔石:A級』を手に入れました。》


「………何が、起こったんだ?」


 突如としてキングスライムの死体が消えてしまった。

 そして、その死体があった場所から一つの指輪と巨大な石が出現した。


「愚者の指輪?」


『愚者の指輪』

…キングスライムからのレアドロップアイテム。装備者への精神攻撃を最小限に抑え込む。更に、装備者のステータスを偽造する。

『魔石:A級』

…品質の高い魔石。取り込むことで大量の魔力と技能を得られる。



「なんか凄いな。

 偽造のスキルは確かに欲しかったから付けておくか。」


 指にめようとした瞬間、指輪のサイズが俺の指とピッタリになる。


「流石は異世界……装備への不便など存在しないってか。」


 デザインも特に変じゃ無いし、本当に当たりだな。


「さてと………後はレベルとステータスポイントだな。」


 まずはレベルを確認する。

 そこにはLV101の文字………まぁLV520のモンスターを討伐したのだ。このくらいは許容するべきだろう。


「でもさ、ステータスポイント8000って………レベルの上昇率とポイントの量が釣り合って無いだろ。」



『終末の加護』

…所持者のレベルアップにつき獲得できるステータスポイント量を増幅させる。


「これが原因か………一体8000ものステータスポイントをどうやって振り分けらって言うんだよ。」


 本当なら、俺の種族的に防御力だけ5000とかになってたのか?

 能力改変のお陰で自由に振り分けられるのか?


「とりあえずは、HPに極振りでいいか。」


 現在のHP………8010

 


 

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