経験値モンスターはクリティカル一撃で死ぬので、信じられないくらいHPを極振りしました。

@2098756

異世界転生編

第1話 HPに極振りします

 俺──── 七海ななみ光輝こうきは裕福な人生を送っていた。

 

 それなりにスペックも高かったし、勉学やスポーツだって何不自由なく取り組めた。

 しかし、俺は不幸なことに死ぬ。交通事故だ………よそ見をしていた所をトラックが一撃でだ。正直滅茶苦茶痛かった…泣きたかったし血も出た…滝のように流れ出た。

 けれども、俺は死んだ。この事実に変わりはない。どう足掻いても人の命は一つまで。

 その一つをこぼして仕舞しまえば、何もかも終わりなのだ。ジ・エンドである。


 まぁそんな訳で、俺は死んだ筈だったのだが─────


「七海光輝君だよね??

 貴方には転生してもらいます!!」


「うん……子供の権利を主張する。俺は転生など望まない。早く土に帰らせてくれ。」


「まぁまぁそう言わずに。今回の転生では、三つまで好きなものを持っていけますから。」


「なん、だと!?」


 三つだと…いくらなんでも少な過ぎる!!

 せめてその世界の情報や知識、鑑定スキルやアイテムボックスの配布は常識だろ!!もっとも、欲を言うなら初期装備として最強武器を進呈されるのも、やぶさかでは無いのだが。


「三つも要求を飲むのは特例なんですよ?

 本来なら一つまでなんです………あまり強力なスキルや装備を進呈してしまうと、その世界のパワーバランスが崩れかねませんから。」


「そんな馬鹿な話があるか!!パワーバランスを崩してこその異世界転生だろうが!!

 無双とか俺TEEEEとかしないと意味ないだろ!!」


「それはこっちが言いたいですよ!!私だってこんな仕事いい加減辞めたいんですよ!!

 毎日のように死者の案内、死者の案内………もううんざりなんです!!さっさと次の死者を案内しないと、私が休めないでしょうが!!」


 こいつ!!ついに本性を現しやがったか、この駄女神が。転生者や死者への配慮ってもんは無いのか?


「とにかく、貴方の転生特典は三つです。こればかりは変えられません。

 そして更に言わせてもらいますと、特典を増やすと言うのも無しですよ?」


「俺だってそんな事は言わない。アラジンじゃあるまいし。」


 くそ……っ!!

 特典増やせないのか!?俺の手札がもう手詰まりだぞ!!


「先に聞くが、流石にその世界についての情報は教えてくれるんだよな?まさかろくに戦えもしない高校生を異世界へ放り投げたりは─────」


「教えませんよ?それも特典内容に含まれますから。」


「………は!?本気で言ってんのか!?」


「わざわざ嘘をついても意味がありません。情報は力です………無条件で得られると思わないでください。」


 ぐぅの音も出ねぇ………確か情報は立派な力。いかに強力なスキルを所持していようと、魔法発動の知識が無ければ魔法なんてものは発動なんてできない。


「どうしますか〜?

 情報、欲しいですよね?」


「クッ………!!」


 こればかりは特典を一つ消費するしか無いか。どんなに反論しても、この女神擬もどきの穴を見つけられそうに無い。


「もういい。情報をくれ。」


「はい〜!!賢い判断ですよ。」


 七海光輝ともあろう人が、まさかこんな何も出来なさそうな女に一本取られるとは。

 ほんとに異世界転生は詐欺だ。無双なんて出来っこ無い。


「まずこの世界のは剣あり魔法ありの異世界。そして、私たち天界の神は〝エムリスタ〟と呼んでいます。」


「ほう?やはり異世界と言うものは剣あり、魔法ありの世界なのか………スキルと言うのも、攻撃や補助の手段と言う訳か。」


「その解釈で合っています。スキルを持つ事で、その系統の魔法や剣術への熟練度を高められます。上位のスキルになるにつれて、その効果は強力になります。

 一度『剣聖』のスキルを所持していた三歳児が、鋼鉄の鍋を手刀で叩き割ったことがあります。」


 スキルを所持していると、技の発動を補助すると共に、その効果と威力を増大、そして魔法発動までにかかるリキャストタイムなどを短縮できるのか。

 三歳児が鋼鉄の鍋を叩き割ったのがいい例だろう。


「そして、この世界の共通通貨は日本に近しいものです。銅貨が百円、銀貨が一万円、金貨までいくと一枚につき十万円もの価値があります。」


 基本的に銀貨が主流か………たまに富豪が金貨を使うこともあると。

 

「後、この世界には当然モンスターが存在します。

 モンスターは魔獣や魔物とも呼ばれていますが、自我は無く凶暴。ただ肉を食らうことのみのために存在しています。

 そして、魔物が自我を確立して生まれた種族が魔族。

 魔族の特徴は、至ってシンプルにステータスが高く魔法を使用するのに必要な魔力総量が人種族を遥かに上回っています。」


「魔族っていうのは俺たちと友好的な関係なのか?

 出会い頭に高火力の魔法を打ち込まれたら元も子もないからな。」


「その件ですが、魔族を束ねる者が魔王なのは理解出来ますよね?」


「まぁそのくらいは理解できる。魔族の王、魔王。大抵勇者と争って負ける奴だろ?」


「そうですね。魔王は勇者と対になる存在。

 この世界では、魔王が圧倒的に強いです。私が生み出したものですから。」


「アンタが生み出したのか?

 勇者じゃなくて?」


「はい。私は元より邪神です………魔族側が専門ですから。」


 ………今、聞き捨てならない言葉が聞こえた気がする。邪神がなんだって?


「もしかしなくても、俺って魔族に転生させられるのか?」


「当然です!!私の優しさで『人化』のスキルだけ授けてあげます。」


「待て待て………俺はモンスターに転生するのか!?しかも人化って──────」


「人化しないとただのモンスターにしか見えませんね。安心してください………人化後の姿はしっかりとイケメンに仕上げてあげますから。」


 全く安心出来ねぇ!!

 え?俺ってば異世界に転生してやり直す機会を与えられたのに、モンスターに転生するのか!?


「人化を行使する場合、MPとかは消費しないんだろうな?」


「それに関しては、私の女神パワーでなんとかなります。ちなみにですが、私の加護を持つだけで、魔物に好かれやすくなったり、更には呪術への適性が上がったりします!!」


「魔物に好かれやすくなるメリットは?」


「それは………レベルアップがはかどること、ですかね?」


 なんでお前が疑問形なんだよ。その加護を与えられる俺の気持ちも考えろよな。

 異世界に放り投げられて、更には魔物に襲われやすいときた。


「俺は、俺は何に転生するんだ?」


「貴方には経験値モンスター〈メタルスライム〉に転生してもらいます。最近狩られまくってて個体数が減少傾向にあるのですよ。」


「つまりはなんだ!?

 俺は子孫繁栄のために異世界へ行くのか!?」


「少し違いますね。貴方には最強種へと至って頂きたいのですよ。そうすれば、いやでも経験値モンスターの種族的階級が上がります。」


 俺が最強種とやらに至れば、自然と他の経験値モンスターの権利も高まると言うことか………確かに俺は好きに強くなればいい。それに伴い経験値モンスターが優遇されれば神の立場としては得しか無いのか。


「それならさ、もう少し特典を増やしてもいいんじゃ無いのか?お前に損は無いと思うんだけど。」


「あぁ………そのことなら、特典は私の神パワーを多量に消費するんですよ。それが滅茶苦茶疲れるので。」


 なんて無責任な。こいつは自分が楽するために俺という存在を利用している。

 おそらくだが、俺が死んでもこいつはなんとも無いのだろう。特に悲しみもしないし、俺はただの実験台なのかもしれない。


「本当にお前って邪神なんだな。」


「私は元より邪神だと言っていましたよね?

 それでは特典を残り二つ選んでください。」


「あっ、先に言っておきますけど……他の異世界情報は、転生後に貴方の脳内に強制的にインプットされますから問題無いですよ〜。」


 なんでもありだな。

 なんにせよ、情報を一変いっぺんに覚えるのは不可能だから、その対応は非常に有難ありがたい。


「じゃあ残り二つの特典だが………アンタはどんなのがいいと思う?」


「私にそれを聞きますか?

 私としては、鑑定スキルは必須だと思います。そして、そのアイテムボックスも必要ですね。」


「それだと俺がさっきまで言ってた普通は貰える筈の特典だろ?

 俺としては強力なスキルが欲しいんだよ。」


 例えばだが、鑑定スキルにも種類はある筈だ。何もかも鑑定できる鑑定専門スキルでも悪くは無いんだが………やはり特殊な魔眼とか、全てを見通す心眼とか。

 その手の奴を貰わないと損だろ。


「わかりましたよ。

 貴方には『神眼』と『能力改変』のスキルを与えましょう。」


「おー。俺が考えてた奴より強そうなワードが飛び出してきたな。」


「神眼は、全ての看破スキルの頂点ですね。最も、動体視力の向上や魔力操作への補正もかりますが。」


 鑑定系スキルの最上位………それも身体的能力も向上するそうだ。


「能力改変の方は、どんなスキルなんだ?」


「能力改変は、ステータスを弄れるスキルですね。このスキルの凄い所は、その改変できる対象が使用者だけじゃ無いことです。」


 詰まる所、ステータスを弄ることで敵との相性を潰せる訳か。

 

「俺は〝メタルスライム〟らしいからな。

 あまり防御力に振りすぎても無駄がありすぎる………そのスキルは必須だな。」


「それでは特典として貴方にはその二つのスキルと情報を授けました。

 頑張って最強種へと進化してくださいね?」


「最後に一つ聞いてもいいか?」


「なんですか?」


「俺以外に転生者はいるのか?」


「そんなことですか。当然いますよ。と言っても、私が転生させたのは貴方が初めてです。

 人種族側担当の女神がどのくらいあの世界へ送っているかは未知数ですね。」


 勇者が何人もいる可能性があるのか。これは要注意事項が増えたな。


「それじゃあ、頑張ってくださいね。」


 神が足元に展開したであろう魔法陣から転移する。そこで俺の意識は次第に薄れていき、最後は転移中に眠ってしまうのであった。

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