スキル持ったからっていきなり使えるってわけでもない。

「これから旅をする仲間なのだから部屋は四人一緒でよいだろう。」


 なんて言われることもなく、ちゃんと個々人に一部屋用意されることになった。

 そのうえ一人専属のメイドまでつけると言われ、レオは落ち着かないからと辞退を申し出ていたが勝手の違うここでの生活はなにかと不便でしょうと結局断り切れていなかった。

 北条さんには男の執事をと準備されていたが自身の寝所ともなる部屋に知らない異性を置きたくないと抗議すると


「あぁ、そちらの趣味なのですね」


 特に否定的なことも言われずにあっさりと変えてくれたが釈然としないものが残ったそうだ。

 あとデブはノリノリだった。

 

「今日は急に呼び出されて疲れただろう。しばらくの間はこの城で生活するとよい。」


 王の言葉に甘え各々メイドに部屋へ案内してもらおうかという流れになった。

 しかしうちのパーティには空気の読めないのがいる。

 だれだ。デブだ。


「王よ。これは世界の窮地を救うための言うなれば大いなる使命なのだろう。ならばしばらくはこの城で生活…などと悠長なことを言っておる場合ではないのではないかな。」

「いやちょっと待てよ。大道寺君、北条さんは魔術を覚えていないからスキルを使うこともできないし、俺に至っては聖剣がねーからほぼほぼ一般人と変わらないんだぞ。そんな中でさあ出発だってわけにはいかねーだろ。」


 レオの言うことは正しい。守ると回復しかないこのパーティで出発しようなんて考えるのがそもそも間違えている。

 しかし、そんなレオの静止を聞いてもデブはしたり顔で答えた。


「分かっていないなぁ、レオ殿は。大丈夫、こういうのは最初の町でイベントが起こってすんなりと聖剣が手に入る流れでござるよ。北条殿にしても旅の途中途中で古い魔導書だの石板だのを見つけて太古のレア魔術ゲットできるはずで。我が盟友、憩殿もそう思うでござるよね。」


 いやぁ、厳しいっす。ぶっちゃけそんな危険そうな旅になんて行きたくないし。行くのはもう避けられなさそうだから仕方ないけどさ。だとしても、こんな攻撃力のない状態ででれるわけねーだろうよ。


「まずは最初の町で情報収集。それが基本だろ。基礎の魔術を習えるってならそれが使えるようになってからでもいいんじゃないか。」


 さっきの王様の言葉からも今日明日に人類滅亡さよならってわけでもないみたいだし。

 それにゲームのように都合よくイベントが起こって聖剣が手に入るとも思えない。


「聖剣のありかについて何の手がかりもなしに動くわけにもいかないだろう。王様、聖剣についてなんの手がかりもないのですか?」

「全くないというわけでもない。あのエルフの田舎者どもの里に隠されているという話はある。しかし、もうしばらく待て、もっと詳しい情報に心当たりがある。うまくいけばな。」


 エルフの田舎者ども、ね。もしかするとこの世界の人族っていうのは排他的な種族なんだろうか。すべての種族(現状どんなのがどのくらい存在するのかも分からないけれど)とのべつ幕無しに戦うことにならなければいいんだけどね。

 一抹の不安を案じていると、ふいにちょんちょんと肩を叩かれた


「憩殿憩殿、これはきっとあれですな。拙者たちの活躍によりいがみ合っている種族を統一して一緒に魔族を倒すというパターンですな。しかもいきなりエルフですぞ!エルフといえば金髪巨乳!!あいや、拙者は巨乳だろうが貧乳だろうが…」


 最初は小声で耳打ちだったのに途中から興が乗ってきたのか普通に声がでかい。うるさい、声量戻したんだったら耳からもっと遠のけ。

 あと内容が内容だからな。見ろ、北条さんの冷たい視線をあれ氷の魔術使えるようになったんですか。うるせーわ。

 それではご案内いたしますねと、レオと北条さんのメイドは王様との話に一段落ついたと判断したようで、二人を連れ廊下へと出て行った。

 俺も王様の前でこの男の変態的な話を聞かされ続けるという状況を打破したい。けれど、俺が普通に会話を切りやめようとしたところでこの男、空気を読まずに続けてくるだろう。それならば、物理的離れるしかない。そのための方法はすでに俺は目にしている。

 そう部屋は別々、今さっきレオや北条さんがメイドに連れ出されていったが扉を出たところで左右別々に曲がっていった。俺たちも扉を出てすぐにばらけるなんて都合のいいことまでは考えないがそれでも部屋が別である以上どこかで別れることになるだろう。

 俺は早く部屋に案内してほしいという意味を込めてメイドさんに目配せをしてみた。

 すると、意味が通じたのかメイドさんはすぐにうなづき返し


「これから旅をともにする仲間との絆は大切なもの。どうぞ私たちのことなどそこらの塵芥とでもお思いになられませ。存分に語られるとよろしいですよ。」


 アイコンタクトというものはそれこそ絆が強いものや信頼しあっているもの同士で行われる。出会ってすぐのメイドさん相手には荷が重かったようだ。

 ……盟友、ソウルメイト認定されているこいつに伝わらないのはなぜだろう。なぜだろう。


 結局やたらとしつこい大道寺が話し始めて満足するということもなく、いい加減次の予定が詰まってんだけどと王様から苦言を呈されるまで話したおされた。

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