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「それにしてもJKが2ストの走り屋バイクねぇ。まあ、見た目は分からないから絡まれないか…っと、もう行かなきゃ」
時計を見たお姉さんは慌ただしくレーシングスーツをきちんと着直した。裾が余って腕も捲って無理やり胸を押し込んでいる。
「ちくしょっ、入れってば」
とか言いながら着るのに苦戦している。話を聞いちゃったからサイズが合うのを着ればいいのに、なんて言えない。
「お姉さん…また会えますか?」
ぎゅぎゅう――ものじゃないのに胸を押し込むのに苦労しているおねえさんを見ながら私は言った。
「うーん、どうだろうね。機会があったら…って言っておく」
「今度は、私が胸を貸します。今日は私が泣いちゃったから…」
やっとレーシングスーツに胸を押し込んだお姉さんは、VTのヘルメットロックからヘルメットを手にした。その紫地に白と金のラインの入ったヘルメットには傷一つ無くて私を安心させる。
「なに? JKのおっぱい触らせてくれるの?」
「ええっ、それは……そのぉ…」
「あっは、冗談よ。JKにそんなことしたら淫行になっちゃうじゃない」
最初からそんな気はしたけれど、ミルクティーの間接キスみたいに覚悟を決めて返事したのに。
ヘルメットを付けたお姉さんはVTに跨るとセルスイッチを押してエンジンをかける。
ドッドッと私のRZと違う重いエンジン音が静かな駐車場に響く。
アスファルトを蹴って後ろに下がったお姉さんはヘルメットのバイザーを開けた。
「短い時間だけど楽しかった。JK、名前を聞いてもいいかしら?」
「私は――」
ブォンとVTのエンジンが吹かされて私の声をかき消してしまう。
「やっぱ、やめとく。また会えるようなら聞かせてもらうわ」
にこっと笑って、お姉さんは私の返事を待たずに走り出した。
私はその姿を見続け、一度見えなくなって弁天橋を渡って左に曲がるところまで見送った。
なぜだか追いかけようとする気持ちは無くて、ただ見送るだけ。
「あっ、ミルクティー」
姿が消えて私も帰ろうとキーを差し込もうとして、今さらのようにミルクティーの缶を持っていることを思い出した。
まだ残っているミルクティーを口にするとすっかり冷めてミルクのくどさと甘さと……タバコの匂いが口に残る。
昼頃に家に帰った私は目を吊り上げた両親に怒られて、一ヶ月の寄道禁止自宅直行令をもらった。
当然、RZに乗るのも禁止。
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