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 どうしてこんなに泣いたのか自分でも分からないくらい泣いて、やっと落ち着いた私は今度は恥ずかしくなってお姉さんの胸元から顔を離せなくなっていた。

 そうなると顔をうずめている柔らかい胸が気になってくる。

「なに? 泣いたら今度はおっぱいが欲しいの? 赤ちゃんなの?」

 頭についたお姉さんの頬から振動と一緒に声が響く。

「おっ、ぱ?」

 顔を上げるとお姉さんが私の左手を――おっ、おっぱ、胸をもみもみ感触を確認している手を上から抑えた。

「無意識です。無意識。わざとじゃないんですぅ」

 私は急いで離れようとするのにお姉さんが押さえて離してくれない。

「いやーん、JKに犯されちゃう」

「しません! そんなことしませんから!!」

「……泣いてくれて、ありがとね」

 それまでのふざけた様子はフッと姿が消えてお姉さんが私を抱きしめ方が優しく変わる。

「お姉さんは泣かないんですか?」

「あたし? 泣いたよ。それはもうずっと。その結果がこの声」

 嘘なのか本当なのかは私には分らない。ただ、分かるのはお姉さんの声は私が知る誰よりもかすれていると言うことだけ。

「さて、JKとのいちゃいちゃも終わりかな。仕事に行かなくっちゃ」

 抱えられていた腕がほどかれて、自然と私の顔からも胸の感触が遠くなる。

 ちょっと寂しい気持ちになりながら、岩場から堤防のところまでお姉さんの後ろに付いて歩く。

「あの…そのVTってお姉さんのお姉さんのなんですよね?」

「へぇー、よくVTなんて知ってるねぇ。そうだけど、どうかした?」

 さっきの話だと事故で死んだお姉さんのお姉さんの形見。それはつまり事故車ってことで。フレームとか危ないんじゃないのかな。

「ああ、まあそうだね。本来ならとっくに廃車が正しいと思うよ。フレームとか考えればね」

 また、私の心を見透かしたようにVTのガソリンタンクに触れながらお姉さんが言う。

「いつまで持つか分からないけど……完全に壊れるまでは乗り続けようと思っているんだ」

 すっきりしているようでいて、やっぱりどこか寂しそうに見えるのは私の勝手な思い込みなのかな。

「JKのバイクはどれ?」

 私はRZを紹介しようとして、できなかった。

「見て、あたしのVTの隣のバイク! 変身ヒーローかよっ!」

 と私のバイクを見て大笑いを始めてしまったから。

「わた、私のサイクロン号を笑わないで下さい!」

 持ち物には名前を付ける。それが私のものになった証で、自転車にだってちっぱー君と言う立派な名前を付けた。

 そして自慢の名前をけなされて嬉しい人はいないはず。少なくとも私は嬉しくない。

「サっ、サイクロンって、まんまじゃん! JKいくつなのよ?!」

 むぅ。お姉さんは余計に笑い出した。

「叔父さんからもらった時に名付けたんですよぉ。いいじゃないですか。似てるんだし」

「いや、確かにそうだけど。ベースなんなの?」

 お姉さんはお腹を抑えて、あーお腹痛いとか言いながら私のRZの傍でしゃがみ込む。

「ふーん、RZベースって…古っ」

「お姉さんのVTの方が古いじゃないですか」

「うんまあそうなんだけど。ライトをシングルからダブルに改造までしてる…でも、ホンダベースじゃないのね」

「えっ、サイクロン号はスズキですよ?」

 ふっふーんと叔父さんから教えてもらった知識を披露。初めて役に立った気がする。

「私が言ったのは、別ので……それに最近はホンダって説……まあ、いいけど」

 あれ? お姉さんは納得してない感じ。ホンダの話は、今度叔父さんに聞いてみよう。

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