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「確かに危ないですよね。私はしないけど、車の間をすり抜けたりするのを見てると怖いなぁって」
「そうよねぇ……」
お姉さんは、目を細めて、またスーっとタバコを吸いこむ。
その様子を見ながら私は二つのことに気づいた。
一つは、レーシングスーツはお姉さんの体よりもサイズが大きいこと。
もう一つは、何か所も擦れて革が削れていたり、肩や肘なんかの保護用プラスチックパッドが見えてること。
お姉さんが事故を起こした――んじゃないと思うんだけれど。
詮索は好きじゃないから、私は黙った。
しばらくは昇るお日様を見て、寄せては返す波の音を聞いて。
「今日は月命日なのよ、姉のね……仕事があって事故のあった峠まで行けないから海で自己満足してるって訳」
「お姉さんのお姉さんですか?」
「そっ、年上でバイクが大好きだった姉さん。ヘルメットにね、カメラを付けて走ってはその景色を見せてくれて、スピード感とか映像なのに風を感じたり。画面から見る姉さんの運転はいつも安全運転で………なんて言ったっけかなぁ。峠を車で猛スピードで走るの」
なんか名前がついていた気がするけど私には分らないや。
「まあ、そういう車がね、センターラインを越えてぶつかってきて姉さんだけ崖下にポーン。残ったのはVTとこのスーツと死に際が写ったカメラのデータ」
やっぱりお姉さんのレーシングスーツじゃなかった。
でも、あまりにも重い話に私は何を話していいか分からなくて、目の前のお姉さんの顔が寂しげに見えて――涙が出てきた。
「あっ、ごめん! 初対面の女子高生になに話してるんだか。ごめん、忘れて」
「…そんなの……無理ですよぉ……」
一度こぼれてしまった涙を止めることができなくて、泣き出した私は嗚咽まで漏れてしまう。
「ごめんごめん。あたしが悪かったよ。変な話して」
グイっと頭を抱えられてお姉さんのおっきくてやわらかい胸に押し付けられる。
「泣き止むまで胸を貸すから」
やわらかいなぁなんて頭の端で思いながら泣いているとお姉さんの頬が私の頭に触れる。
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