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寒くないとはいえ、レーシングスーツだけで走り出したのは失敗だった。
当たり前なんだけれど走ると風を受けて体温が下がって、だんだん寒くなってジャケットを着てこなかったことを後悔し始めている。
「はぁぁぁぁ…あったかい…」
戻るのも癪なのと両親に見つかって怒られる未来しか見えないので、信号で止まる度にRZのガソリンタンクに抱き着いて暖を取り取り、江ノ島に向かって走っている。
いつもなら混んでいるこの道も、夜のせいか人影どころか車影も少なく、私はだんだんとレーサー気分になって、アクセルを開き気味にして加速。
とは言うものの、たいした腕と度胸を持っていない私ができることは微々たるもので、カーブでも少し車体を傾けるだけ――なんちゃってハングオンの、あくまでもレーサー気分。
急カーブに差し掛かったところで自分の限界を超えないように7対3の割合――教科書通りに前輪と後輪にブレーキをかけ、加速をゆるめてカーブに進入――と、黒に赤いフレームのホンダVT250が横を走り抜けた。
ヘルメットの襟足からのびた長く髪が深く倒した車体と反対方向になびく。白と金のストライプの入った紫のレーシングスーツを着ていて明らかにサイズが合っていないのに、何故か女性だって分かる。
(VTって、もっと古くない?!)
自分のRZを棚に上げて驚く私をよそにVTは、叔父さんに見せられた邦画のダーティ・ヒーローの幻影でも見ているかのように綺麗なライン取りで私の視界から消えて行った……
「かっこいい……」
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