夜明け

紫光なる輝きの幸せを

1

 その日、急に夜明けの海が見たくなった。

 吊るしたライダースーツに袖を通して、私はそっと家を抜け出した。

 できるだけ音がしないようにガレージのシャッターを開けて、お父さんの車の横に置いてあるシートに手をかける。シートの下には叔父さんから譲ってもらったヤマハRZ250R。

 変身ヒーローに憧れてバイク乗り――ライダーになった叔父さんは購入したRZにメーカーカスタムを施してもらい、ヒーローと同じにフルカウルにカラーリングとデザインを変更。ご丁寧にヒーローが所属するレーシングチームのステッカーまで付いてる。

 二〇〇〇年代の製造らしいけれどレストア済みのRZ――ほんとは別の名前を付けた――は、今でも元気に走り、今では私のお気に入り。

 家族に気付かれてしまうからエンジンをかけないで重いRXを広めの通りまで押して歩く。いつもは甘い家族も女子高生の夜遊びにはうるさいから。

 広い通りに出てからチョークレバーを引いて、跨ってキックレバーに足をかける。

 一度、キックレバーを踏み込む足を滑らせて恥ずかしい骨をガソリンタンクに強打して立ちゴケして以来、エンジンスタートにはとっても慎重。股間を打ち付けて痛い思いをするのは、実は女の子だって同じなのだ。

 そんなに寒く無いせいかエンジンはキック一発で始動。ぱすんぱすんと2ストロークの軽い音を立て始める。

 エンジン回転が安定する間に目的地の江ノ島までのコースを頭の中で反復。

 コースは二つあるけれど、坂道が少ない方にしよう。

 チョークレバーを戻してクラッチを繋ぎアクセルを開いて、私は夜の帳の中を走り出した。

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