第49話 ニイと葵の友達関係
イチが出かけた後、少ししてニイも家を出た。
葵に買い物に付き合ってもらうという口実でランチをする約束をしている。
両親の結婚記念日のプレゼントを一緒に見てもらうため銀座のデパートを見て回った。一階の婦人ものの小物売り場を見た後、葵がニイの腕を掴んで歩くのを止めた。
「プレゼントは何を考えているの?」
「マフラーとか手袋?」正直なにも考えていなかった。
「マフラーはもう品数少ないし2月だと使える期間が少ないよね」
葵は少し考えて「ご両親の共通の趣味は?」と聞いた。
「ないな」
「コーヒーは」
「父親は飲まない」
「お酒は?」
「それは二人とも酒豪」
「ペアのグラスはどう?飲んでるお酒でグラスは変わるけど」
ニイが頷くと葵は食器売り場のフロアへと歩き始めた。
食器売り場で陶器やガラスと有名ブランドのテナントの陳列してある商品を見ていく。売り場に入ると、すぐに売り場の係の人がやってきた。
「ブライダルコーナーにも商品がございますので、ご案内いたしましょうか」
二人で行くと必ずそう言われた。行くところで毎回言われるたびに照れ臭かった。
銅製のビアグラスを購入して係の人にラッピングについて好みを聞かれた時、ニイはつい葵を見てしまった。
「包装紙はその黒い方で。リボンはシルバーと水色の二本どりでお願いします」
すらすらと指示をする葵の隣でニイはただ立っているだけだった。
商品を受け取る際に係の人から「お二人、お似合いですね」と言われた。
葵を見ると恥ずかしそうだったが、否定はしなかった。俺はそのことが嬉しかった。
お礼と称して遅い葵とランチをした。俺の中ではこれが本来の目的だった。
ランチは銀座の外れの鯛茶漬けの老舗を予約していた。ゆっくりと美味しい食事をしながら落ち着いて話したかった。
カウンター席で横並びで座ると、向き合うよりも会話がしやすかった。
ニイは葵の今の生活を詳しく知りたかったが、会話の主導権は葵に任せた。葵が聞きたいことを中心に会話をしていた。
それでも葵の今の仕事内容から住んでいるところまで知ることができた。
葵は俺たちの住んでいる家から案外近くに住んでいた。
あの家から徒歩15分ほどの距離にある神社の近辺のマンションに住んでいると言った。
思わず、その神社にはよく散歩に行くと嘘をついてしまった。
よく散歩に行っているのはヨンとレイだ。単に手を繋ぐ口実だと俺は思っているが、あの2人は暇さえあれば散歩している。
距離的には近いのに俺たちの家とは路線が違うので今まで会わなかったのだろう。
葵は福岡に転勤する前までは東京でも神奈川に近いお洒落な区域に住んでいた。俺らが住んでるのは下町だ。葵が東京に戻ってきたと聞いた時、当然昔住んでいた馴染みの場所に住んでいると思っていた。
葵は父親が入院したこともあり、いつでも埼玉の実家に帰りやすい場所を選んだと言っていた。
俺と付き合ってた当時、週末は葵の家に入り浸っていた。四人で住んでいるあの家に連れていく訳にはいかないと思ったからだ。今思うと、連れて行けばよかった。ヨンとレイを見ているとそう強く思う。イチャイチャできないから連れていかなかった。別にずっとイチャイチャしてる訳じゃないのに。若さのゆえの愚かさだ。
ヨンとレイは一緒の家に住んでいるから、俺のような選択肢がそもそもない。だから、家の中でも堂々と交際をしている。交際してても俺もイチも気まずくなることがないのは長年一緒に住んでいるせいだけではない。二人の態度が変わらないからだ。
ヨンが羨ましく感じた。
ヨンは週末だけレイの部屋で寝ている。いやらしさを感じないのは、好きな女が隣に寝ているのに何もできず修行のような時間を過ごしていると想像がつくからだ。ヨンの苦労を思うと羨ましさも瞬時に消えた。
ニイは「家まで送る」と言いたいのをグッと我慢し、葵を駅で見送り姿が見えなくなるまで見ていた。
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