第47話 動き出す

 2月初旬。

 イチは後期試験を終え、晴れ晴れとした気分だった。

 いつになく勉強したので達成感があった。この分だと問題なく四年生になれそうだ。失恋も悪いことばかりじゃないなと自分自身に強がって見せた。

 もう校内で彼女を探すこともなくなっていた。彼女が就活のためにバイトを辞めたので会うこともない。見かけないおかげで罪悪感も寂しさも薄れてきている。このまま彼女のことを忘れていくのだと思った。

 

 明日の土曜日は舞子に付き合って御徒町に行く。イチは貴金属を買い取ってもらうことに全く興味はない。ただ舞子と一緒にいるのは楽しかった。

 イチはバイトに行く車内で明日どこで何を食べようかと調べ始めた。



 ニイは葵との友達関係をどうすればいいのか試行錯誤していた。

 告白したのに友達でいることは、なかなか難しかった。どうにか口実を見つけて毎週末、会いたいと思っている。そして一番苦労しているのが、毎日連絡したいのを抑えることだ。毎日連絡する友達がいるのだろうか。そう思うと躊躇してしまう。

 

 社内恋愛だと、どうしても周りに付き合っていることが分かってしまう。葵と付き合っていた時も秘密にしていても三か月で噂になり公にせざるを得なかった。公にすることは俺にとってはメリットが多かった。堂々と一緒に帰れたからだ。飲み会の後、会社の人達を巻くのに苦労せずに済んだ。

 好奇心や冷やかしに俺でさえ煩わしさやムカッとすることがあったのだ。葵もそうだったと気付かなかったことが申し訳なく後悔している。

 

 今のところ、葵とは俺の会社の人に会わないような場所と時間を選んでいる。疲れると無性に会いたくなるのだが、平日の夜に会うことは避けていた。

 葵が俺の会社の人と連絡を絶っているのであれば、知られても連絡しようがないと思うが解決法が見つかるまでは慎重にして越したことはない。


 社内恋愛でなければ、俺が誰と付き合おうが自分が言わなければ知られることはまずないだろう。

 葵が転職したことで、この問題は解決したと言えるのだろうか。ニイはなんとなくスッキリしないと思っていた。



 ヨンは来週からの出張を控えていた。

 ヨンは建設会社に勤務している。ヨンの出張は視察や調査になるため日帰り出張になることはない。短くても国内で2日、海外だと5日だ。毎年この時期の出張は調査に加えてシンポジウムに参加するため国内でも5日と長かった。例年月曜の夜に出発して土曜に帰って来る。今年は京都でシンポジウムが開催される。それに合わせて前日まで上司と視察調査に数か所をまわる。シンポジウムに参加するのは自分一人だ。上司は木曜に東京に戻っていく。出張に向けての準備は連日の残業で万全だった。

 来週は5日間出張で家にいない。レイと付き合ってからこんなに長い時間離れるのは初めてだ。ヨンは少しナーバスになっていた。


 休日の朝6時45分。ヨンは一度目を覚ます。レイと付き合ってから一番好きで忍耐を問われる時間となっている。


 レイは休日は7時半まで寝ているのだが、平日は朝6時45分に起きる。レイは休日もいつもの習慣で6時45分に一旦目を覚ます。そして、もう少し寝ていられる幸せを感じ二度寝するのだ。

 二度寝する時、レイは俺にミータのようにすり寄ってくる。だから向き合う様に体勢を変えておく。するとレイは必ず俺の胸に顔を埋めてくるのだ。


 俺はチャンスとばかりに抱きしめるが、ここで調子に乗ると大変なことになる。レイの身体を触っていると妙な気分になるからだ。好きな女と布団の中で抱き合っていたら当然の結果なのだが。

 生唾を飲み込む俺の気持ちも知らないでレイは気持ち良さそうに微睡続ける。俺はレイの背中を撫でて自分の高揚した気持ちが落ち着く待つ。そのうち俺も寝落ちしているのがここ最近のパターンだった。


 来週の土曜日の朝は一人なのかと思うと今日は二度寝ができなかった。

 レイを起こしてキスをしたいのを我慢し強く抱きしめた。

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