第17話 秋の夜長

 優斗は夜泣きもせず朝までぐっすり寝てくれた。朝の5時までは。

 朝からパワー全開の優斗にミータは網戸に張り付いて避難した。

 優斗は昨夜遅く帰って来たイチと対面したが人見知りすることなく直ぐに懐き、出かけるまで面倒をみてくれた。


 14時頃、ヨンはレイと一緒に優斗を連れて実家に行った。優斗の父親も退院し、ヨンの両親も豊橋から戻っていた。

 優斗は父親を見ると甘えん坊のパパっ子に戻り、ヨンもレイも眼中になくなった。

 「パパ。赤ちゃんパンダがお外に出たら見たい!」

 「その時、また行こうな」

 「優斗は賢いな。今パンダの親子に会えないことを知っているのか」ヨンの父親が関心している。

 「ウン!でね、でね、赤ちゃんはおしっこで出てきたの」

 ではいだ。内容は微妙に違うが、喋り続ける優斗にレイは慌てた。変なことを教えたと怒られないうちにと早々に退散した。


*******


 小さなお客も無事に父親の元に帰り、平穏な日常が戻った。仕事に学業にとそれぞれが多忙な日々だ。


 9月下旬、イチは夜に秋を感じた。

 ミータがイチのベッドに入るようになると寒くなっていくサインだ。ミータは一日の大半を一階のリビングダイニングとレイの部屋を自由に行き来している。夏の間はレイの側で寝ているが、冬になると何故かイチのベッドの中に入ってくる。謎と言えば、ミータはヨンの肩にしか乗らない。去勢手術をしてから少し太ったので重さ5キロ強の猫をヨンは肩にのせているのだ。

 薄っすら目を開けると、ミータに鼻を噛まれた。顔をガードするように布団を頭からかぶった。


 大学は秋学期の前半が始まり、今は少し落ち着いた。彼女は就活のためのインターンで夏休み中はなかなか会えなかった。すれ違いが多くなり、このまま振られてしまうのかなと、少し不安に思うと寝られない。

 気分転換に授業の間に写真を撮ろう、明日は忘れずにカメラを持って行こうと思いながら眠りについた。


 イチは大学で環境工学を学んでいる。そのためゼミや視察のため自然の多い場所を訪れる機会が多い。綺麗な景色は研究用の写真とは別に祖母が使っていた古いカメラで撮っては、レイにプレゼントしている。最近密かに人も撮っている。勝手に撮れる人間と言えば、この家の人たちしかいない。モデルはあの三人だ。三人の写真が面白くてこのところ風景の写真を撮っていなかった。

 翌日、イチは次の授業までの90分で学校の古い校舎や銀杏並木をカメラに収めていった。

 風に落ち葉が舞い、陽の光でキラキラと輝いて見える。これを写真に残すことは俺の技術では難しい。カメラのレンズを覗いていると彼女が歩いていた。思わず写真を撮ってしまった。


 どうしたもんかな。

 連絡したのに返事がないと気になって仕方ないし、何度も連絡するとストーカーのようだし。しかも写真まで撮ってしまった。

 かと言って、いつも気にしている訳ではない。興味のある授業や友達と会ってる時は不安も忘れてしまっている。

 イチは初めての恋愛にどうしたらいいのか全く分からなかった。


 その日の夜、家にはフツフツとした思いのニイと心が沈んだイチがいつものソファーに座っていた。

 ニイはスマホを手に取っては立ち上がり、すぐに座ることを繰り返していた。自分から連絡する勇気がなく何度もスマホをいじながら。

 「ニイ、落ち着かないよ。じっとしてて」イチはニイのスマホを取り上げテーブルの上に置き、ニイが立てないように肩を押さえた。

 「落ち着かないだと。俺が落ち着いてたことがあるか?」

 「ない」イチは笑った。

 「生意気になって」ニイはイチの頬をつねる。

 ニイとイチが小競り合いをしている中、ヨンが帰って来た。 

 「週半ばなのに二人は元気だな」ヨンは皮肉交じりに言った。

 「元気じゃない!」

 イチの反論は無視され、ヨンが言った。

 「メシにしようぜ。レイがいないし、ラーメン食う人!」

 ニイとイチが勢い良く手を挙げた。


 

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