第18話 秋の夜長の続き


 週の半ばの水曜日。

 レイは急な依頼が入り遅くまで残業した。

 入社当初は海外とのメールのやり取りが多いチームでアシスタントをしていたが上司の無責任な態度に「一発殴らないと気が済まない」と肩をほぐしながら凄んだ様子を部長に見られ今の資料作成チームに隔離された。そしてこの仕事はレイに向いていた。鈍感力とはすばらしく、当の上司は自分が原因でレイが異動したことは知らない。

 人間関係で消耗するぐらいなら作業で残業するほうがマジだ。そう思い部長からの差し入れのカツサンドを食べながら、作成した資料を見直した。



 家に帰ると男三人が夕食を終え何やら揉めていた。テーブルの上には空になった鍋や作り置きおかずを入れた容器にラーメン皿が放置されたままだ。


 「レイ、今何キロだ?」

 レイが部屋に入ると「お帰り」の言葉ではなく、ニイにいきなり体重を問われた。

 「レイ、ご飯はどうしたの?何か食った?」

 「残業中に差し入れのカツサンド食べた。先にお風呂入って来る」ニイの問いには答えず、自分の部屋に行こうとした。

 「少し待って」イチはレイを心配したのではないようだ。

 「絶対俺が勝つのにいいんだな?」ヨンはニイとイチに念押しした。

 「今着ている服の重さを入れた数字だ。俺は50.5」ニイがレイを見て言う。

 「49.8」イチが風呂場から体重計を持ってきて言った。

 「50.1」ヨンが含み笑いをした。

 三人の視線でレイは仕方なく黙って体重計に乗った。

 「50.1だ」イチが読み上げた。

 「ほら、俺が絶対勝つって言ったろ!」ヨンがニイとイチにエプロンを投げ渡した。


 レイが風呂からあがり半渇きの髪をタオルで拭きながらキッチンに入ると、ニイが洗い終わった食器を拭いてイチが食器棚にしまっていっていた。レイは冷蔵庫から麦茶を出しリビングのソファーでテレビを見ているヨンの前の床に座る。

 「面白い方法で片づける人を決めているんだね」

 「三人揃ったときだけな」

 「ジャンケンじゃ、つまらないだろう?」ニイがエプロンを外しながらヨンの隣に座った。

 イチも剥いた梨を入れた皿を持って座り、レイの口に梨を一つ入れヨンに話しかける。

 「すごいよ。どうしてピッタリの数字がわかったの?」

 「さては、抱いたな」ニイがからかうようにヨンの脇をつつく。

 レイは先日のことを思い出していた。確かにベッドに引きずり込まれた時ヨンに全体重をかけた。あれで体重がわかるものなのかとヨンを見る。

 「だから、俺はレイの体重を知っているんだ。二人が何て言ったかもう一度聞かせてもらおうか」ヨンは鼻で笑った。

 「ニイは『女のことは一番詳しい。女だったら見ただけで身長、体重、バストサイズまでわかる』って言った」

 「イチは『レイのことなら自分が一番知っている』って言ったよな」

 イチとニイは梨を食べながらお互いの言葉を告げ口するように言い合っていた。

 「二人がそう張り合って俺に話をちゃんと聞かなかったからだ」

 「何で知ってるの?」レイが不思議そうに首を傾げた。

 「レイの朝起きてからのルーティンを知ってるか?」ヨンはそれには答えずにイチに言う。

 「トイレに行って、手を洗って、体重計に乗りながら歯を磨いて、顔を洗う。ミータのご飯をあげて」イチはスラスラと答えた。

 「ストップ。そこまででいい。俺も毎朝体重を計っているんだ。この体重計は時間が経つと自動で電源が落ちるけど次に電源を入れた時に前の数字が表示されるんだ。レイの次に体重計を使うから俺は毎朝レイの体重を実際見て知っている」

 「で、50.1キロだったんだ」イチは納得した。

 「いや、今朝は49.7キロだった。何にも食わず、パジャマでその体重だ。夕食のカツサンドって軽食だろう。服装分を入れてもプラス0.4が妥当な線だと予想したんだ」

 「ヨン、イメージと違うぞ。むしろレイを持ち上げて体重を予想したと言ってほしかった」ニイは不満そうに鼻を鳴らしヨンの口に梨を押し込んだ。





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