第16話 小さなお客の続きの続き
家に戻ると、夕食の用意ができていた。
レイは優斗の分だけをお子様ランチ風に盛り付けたていた。亀甲紋の平皿にハンバーグ、ほうれん草のお浸し、南瓜の煮物、ご飯は小さなおにぎり2つ、蕎麦猪口には味噌汁。皿も料理も和風だったが、優斗は喜んだ。
「考えたな。これはお子様ランチって騙されるな」ニイが感心している。
「子供用の食器がないからね」レイはハンバーグを小さく切りフォークに突き刺し優斗に渡した。
子供用のフォークでない。当然食べにくそうだが自分でやりたがるので仕方がない。クッションで高さをつけて優斗を座らせていたが、どうも不安定だ。ヨンが自分の膝の上に優斗を座らせた。
「お前たち、付き合わずに結婚しろ」
ヨンとレイが顔を見合わせるとニイは続けて言った。
「二人の子供のようだ。やることが自然すぎる。初めての共同作業には見えん」
「それが理由になるなら、私よりニイとヨンでしょ?」ニイの冗談に慣れているレイは切り返した。
「何でだ!」ニイとヨンは同時に言う。
「優斗のお風呂が初めての共同作業とは思えないぐらい円滑に終わったみたいだから。それに今も息もピッタリ」
「円滑じゃなかった」これも二人同時の発言だった。
レイは笑いながら優斗の口の周りのケチャップをティッシュで優しく拭いた。
逃げ回る優斗を捕まえて歯磨きが終わると、寝る時間まで1時間弱あった。テレビからは上野動物園でパンダ誕生のニュースが流れていた。
「パンダ見たい」
「明日行くか?」
悲しそうな声の優斗にニイが思わず聞いていた。
「パパと行く」
「そうだな。それがいい。今度のお楽しみにとっておこうな」ニイが優斗の頭を撫でると嬉しそうに頷いた。
「次に来る時はパンダの赤ちゃんも見れるはずだ」ヨンも優斗を元気づける。
「今は見れない?」
「まだ小さいからお外に出れないんだよ」ニイが答える。
「赤ちゃんはどこから産まれたの?」
「あのパンダ母さんの腹の中からだ」ヨンがテレビに映ったパンダの映像を指差した。
「お腹切った?」
ニイとヨンは子供相手にどう説明していいのか分からず、レイを見た。
「優斗だったら、おしっこまみれとウンコまみれと、どっちがいい?」
レイの質問に優斗は即答した。
「おしっこ」
「お腹の中にいて、そこから産まれたんだよ」
優斗は答えを得て満足したのか、興味の対象が変わり今はレイのダメージジーンズの穴に小さな人差し指と親指を入れて穴を広げ始めた。
そのうち優斗はレイの足に寄りかかりウトウトし始めた。ヨンが優斗を抱きかかえレイのベッドに寝かせに行った。
レイはミータにご飯をあげに行き戻るとニイがコーヒーを淹れてくれていた。
元気な四歳児に翻弄された大人3人は無言でコーヒーを飲む。テレビは番組が変わってもパンダの赤ちゃんのニュースだった。
沈黙を破りニイが笑い出した。
「おしっこまみれで産まれるは、いい回答だったな」
「兄貴がいなくて良かった」ヨンがふざけて言う。
「回答が過激で気絶してた?」レイは冗談で返す。
「いや、真面目だから尿道と産道を説明してた」
ヨンの兄を思い出し三人で笑った。
「平和だよな。今日はこのニュースばかりだ」ニイがチャンネルを変えた先もパンダの出産の特集だった。
「まさか、パンダの交尾をこんなに見せられるとは思わなかった」ヨンが本日何回もテレビで流れた白黒の映像を見ながら言う。
「優斗に『赤ちゃんはどうやってできるの?』って聞かれなくて良かったな。聞かれたらどうするよ」ニイが言った。
「今回は楽だよ。映像がこんなに流れてるじゃん。正直何回見てもよくわからない映像だけど、だからこそ、これだって言えば済む」
「言葉で説明しないのか。俺の言葉は率直だから保健体育の授業を受けた人限定だ。優斗どう教えようか悩ましい」
「四歳児はそこまでの答えを求めてない」レイはピシャリと言った。
「どうしてもニイが教えたいなら四歳児にはコウノトリ説でいいんじゃないか。マリア説もあるけどな」ヨンが適当なことを言った。
「まさか、マリア説って処女懐胎?そっちの説明の方が難しいわ」レイは思わずツッコミを入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます