第15話 小さなお客の続き
玄関のドアを開けるとミータが喜んで出迎えたが優斗を見て固まってしまった。そんなミータをレイは抱えた。
予想に反してニイがソファーで本を読んでいた。ヨンとレイ、その間にいる優斗を順々に見る。
「子供って一日で出来るのか?」
「従兄弟の子だ」ヨンは思わず笑う。
「あー、豊橋の?」
「知ってたっけ?」
「小学生の時に一緒にキャンプ行ったよな。確か俺と同い年だった気がするが」
「そうだった。こいつを疲れさせてきたけど夜泣きするかも。悪いな」
「子供は泣くのも仕事だ」
「自分で名前言えるだろ?」ヨンが優斗に優しく催促するが、珍しくモジモジしている。
「優斗……。おしっこ!」
「マジか」ヨンが優斗を抱え大股でトイレに向かった。
レイはニイの膝の上にミータを落としミータのトイレをチェックしに行く。ミータが激怒した時はトイレの砂が撒き散らされているからだ。今回はそのレベルではないと安心する。ミータのトイレ掃除をして戻るとニイが優斗に話しかけていた。優斗はミータに触りたいらしい。
「一緒に遊ぶか?」とニイは優斗を膝の上に座らせ一緒に猫じゃらしを持ってミータとの距離を縮めるようとしていた。レイは2人(1人と1匹)をニイに任せ、キッチンに入った。
「手伝うことあるか?」
ヨンもキッチンに入ってきた。
「ご飯はあるものでどうにかするから大丈夫」
居間から優斗のきゃっきゃと喜ぶ声が聞こえてきた。レイとヨンが覗くと優斗の着替えが入ってる袋にミータが飛び込むように出入りを繰り返していた。
「メシや風呂はどうするんだ?」ニイも気になるようだ。
「20時半就寝、18時半メシ、その前に風呂だな」ヨンは優斗の着替えを用意しながら答えてた。
「じゃ、3人で坂の下の銭湯に行くか?」
「懐かしいな」とヨンも同意した。
まだヨンがこの家に住む前、この家に泊まる時はニイとイチと3人でよく銭湯に行っていた。
「銭湯に行く時はなぜか3人だな」
ニイも同じことを思い出していた。
ヨンは三人分の着替えを入れたバックを持ってニイの後ろを歩く。優斗はニイにすっかり懐いて自分から「抱っこ」と催促した。急な坂道をニイは17キロを抱いて歩いている。
「ヨン」
「代わろうか?」
「いや、それより作戦会議だ」
ニイとヨンは交代で優斗を風呂に入れる大まかな分担を決めた。
銭湯はまだ早い時間でおじいちゃんが1人いるだけだった。
「プールだー」「お山があるー」と優斗は初めての銭湯にはしゃぎ気味だ。ニイは「お風呂だから泳いだらダメだ」「あれは富士山だ」とちゃんと答えながら、一時もじっとしてない優斗の身体をなんとか洗う。ヨンを見ると短髪の頭を泡だらけにしたまま身体を洗い一気にシャワーで流していた。合理的と言うか、まるで洗車だ。
不安に思いつつも隣のヨンに優斗を渡す。ヨンは優斗の頭からお湯をいきなりかけ髪の毛を洗い始めた。
「おい、乱暴な」ニイは優斗を心配したが、当の本人はむしろ喜んでいる。間違いなくヨンの家系だと妙に納得した。
「耳を手で押さえて目を閉じてろ」ヨンは優斗の髪を洗い終え頭上に勢い良くシャワーをかけている。これは、まるで滝行じゃないか。ニイは先に湯船に入り、2人の様子を見ていた。
ヨンと優斗が湯船に入ってきた。優斗は座るとこが出来ず立たせたままだ。大きいお風呂に興奮した優斗は大きな水しぶきを作り始めた。ニイとヨンが慌てて優斗を止めにいった。
「優斗、100まで数えたら風呂から出よう」
ニイが言うと優斗は1、2、3、と数え始めた。でもなぜか、69から1に戻る。4回目の1が始まった時、ヨンが「続きは寝る時に数えよう。身体がふやける」と言って優斗を持ち上げた。
ニイは先に湯舟からあがり手早く身体を拭き腰にタオルをまいたまま優斗の身体を拭く。ふと、ヨンを見ると背中に赤い線が無数にある。ミータの爪の跡だ。ヨンの背中にあると怖さが増す。背中から目を晒し髪を乾かし始めた。ヨンは濡れた髪のまま、優斗の髪を乾かし服を着せた。
「締めはこれだろう」優斗にオレンジジュースを飲ませたヨンがニイにコーヒー牛乳を渡す。
「二人で一人分の仕事だったな」
ニイが思い出したように笑いだした。
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