第7話 夏の夜の出来事
イチが免許合宿に行って三日目。当然連絡はない。便りがないのは元気な証拠。少し寂しいが男の子の母親はこんな気持ちなのかなとレイは思った。
ニイは外泊をよくする。大人だし非難しているわけではない。恋人も定期的にいるし社交的なニイなら納得できる。ヨンの兄弟の話だとヨンは無断外泊をしてもおかしくないのだが、飲んで夜中に帰ってくることはあっても外泊はしない。帰巣本能がある犬のように戻ってくるのだ。
金曜の22時。イチはいない、ニイもヨンも帰って来ない。ミータはレイに甘えるだけ甘え満足してキャットタワーの上で寝てしまった。レイは男三人がいるとできない楽しみ、長風呂を満喫した。風呂から上がり、家に住む男達には半裸でいるなと言っておきながら半渇きの髪を頭のてっぺんで軽くお団子にしショートパンツとキャミソール姿で居間に入った。
「ミャー」
レイを探しているのか、ミータの甘える声が聞こえる。ミータを探しに行くと、玄関の上がりに座ったまま壁に寄りかかっている大きな背中にミータがすり寄っていた。
「ヨン!!」
「大丈夫。少し休んでるだけだ」
レイは床に無造作に放置された薬袋の中を見る。
「どこ怪我したの?」
「腰と足。自転車に突っ込まれた。打撲だけだって言われたから心配するな」
病院に行ってから仕事に戻ったのかとレイは呆れた。
水とタオルを用意して戻って来たレイはぐったりしているヨンを見て血の気が引く思いをした。イチが小学生の頃、ブランコから落ちて頭から血を流しながら帰ってきた日を思い出す。血とか怪我とか得意じゃないのに。心の中で文句を言いながら、ヨンのシャツのボタンを外し前を思い切って開いた。
「そんなに激しくするな。襲いたくなる」
「そんな余力があるなら自分で服を脱いで」
ヨンは既に飲んでいた鎮痛剤が効き始めたらしく身体が怠そうだ。レイの言葉を無視して目を閉じた。レイはなんとかヨンのシャツを脱がせ、汗を拭き湿布を貼り直す。見たこともない色の痣に目を逸らしたくなる。
レイがヨンの額に手やるとヨンが目を開けた。発熱するほど酷い打撲なのだ。
ヨンは自分の額に置かれたレイの小さな手の柔らかさとヒンヤリとした感触に鳥肌が立った。ついレイの唇を見てしまう。このままだと本当に襲ってしまいそうだ。仮に襲ったとして、今レイに反撃されたら痛みで気絶するかもしれない。
変な想像を断ち切るため立ち上がろとした。だが力が入らず、よろけてレイの肩を両手でガッツリ掴んでしまった。
「華奢なんだな」
「ヨンがデカすぎるんだよ」
レイは必死すぎて、ヨンと至近距離にいることもヨンがレイの唇を見ていることにも全く気付かなかった。
いきなり玄関が開いた。
「こんなところでラブシーンか?自分達の部屋でやれ」
「ニイ!冗談言ってないで手伝って!」
レイは今までにないぐらいニイの帰宅を喜んだ。
「上半身裸の男と下着の様な格好の女が至近距離で見つめ合っていたら、
ヨンの状態を見てもレイに怒られてもニイはなぜか機嫌がよく冗談を言うのをやめなかった。
「シャツを脱がされて、いいとこだったのに」ヨンが痛みを堪えた微笑みをみせた。
「相変わらず熱に弱いな」どれどれと熱を確認するかと思いきやニイはヨンの顔をベタベタと触る。
ヨンは力なくニイの手を払いのけた。
「早く立たせてくれ」
ニイがヨンを抱えるように立ち上がった。
「ちょっと、待った」
「私も支えた方がいい?」レイが心配そうに聞く。
「そうじゃない、どこに連れて行くんだ?」
「ヨンの部屋に決まってるじゃん」
「俺一人で?こいつを?二階まで?無理だ!レイの部屋にしよう」
「えっ?」
「レイの部屋は1階だし、ベットは大きいし、どうせヨンの看病で寝ないだろう」
ニイとレイの会話を聞いていたヨンが我慢できずに言った。
「少し休んだら自分の部屋に行く。居間のソファに座らせてくれ。それに看病するほどじゃないから寝てくれ」
「そんなこと言わずに三人で寝ようや」
ニイがヨンにからかうようにウィンクした。
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