第7話

 紅葉と鏡花は、港を見渡せる高台の公園へと来ていた。ヨコハマの街はすでに夕暮れに包まれていた。

「綺麗じゃのう」夕暮れに染まる港を見ながら呟いた。

「ここから眺める夕暮れは美しいと思わぬか?」

 鏡花は何も言わず、街を眺めていた。

「・・・・・・して?」不意に鏡花は呟いた。

「ん。なんじゃ?」紅葉は問いかけた。

「どうして私を色々な場所へ連れて行ったの?」今日一日思っていたことを、鏡花は聞いた。

「私がそなたと行きたかった。ただそれだけじゃ」港の方を見ながら答えた。

「じゃあ、着物を買ってくれたのは?」再び鏡花が問いかけた。

「私がそなたに買ってやりたい。そう思ったからじゃ」港を向いたまま紅葉は答えた。

 鏡花は何も答えなかった。沈黙が二人を包んだ。

「のう、鏡花」不意に紅葉は問いかけた。

「ポートマフィアに・・・・・・。私の元に戻ってくる気はないか?」

「え・・・・・・」突然の質問に鏡花は、どう答えていいか分からず困惑した。

「冗談じゃ」フッと、紅葉は微笑んだ。

「さて。そろそろ時間じゃな」紅葉は鏡花の方を向いた。

「本当はもっと一緒にいたいが、もう約束の時間じゃ。早く探偵社に帰って、童を安心させてやれ」不意に紅葉は鏡花の頭を撫でた。

「今日は楽しかったぞ」そう言うと紅葉は鏡花に背を向けた。紅葉は名残惜しい気持ちを堪えながら歩き出した。

「私も」

 後ろからの声に紅葉は足を止めた。

 声の主は鏡花だった。

「私も今日、楽しかった。ありがとう」鏡花は公園を後にし、探偵社へと帰っていった。

 予想していなかった鏡花からの礼に紅葉は頬を赤く染め、着物の袖で顔を隠した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る