第6話

 この墓地に水子供養の一角がある。竜一が亡くなる直前の猛暑のお盆におじいちゃんのお墓参りにきて、そのそばを通った。何体もの小さなお地蔵さんに赤い前垂れと風車が取りつけられ、墓地を吹き抜ける乾いた熱風に風車がカラカラと回っていた。近くに植えられた低い木の枝に、だれが付けたのかいくつもの風鈴が吊るされ、チリンチリンと賑やかに鳴っていた。竜一の水子はザッと流され、供養などされなかっただろうが、その時はなぜか、そのあたりに竜一の水子の霊が漂い、「お父ちゃーん」と呼んでいる気がした。

 中学3年生になって竜一はほとんど学校に行かなくなった。一学期から夏休みにかけての非行で、二学期が始まったころに少年院に送られた。少年院で中学校を卒業し、その年の夏のおわりに出院してきた。

 精悍な顔つきになり、とびの見習いとして働きはじめた。しかし、親方とけんかして三日で辞めてしまった。「もう素行不良な連中とつきあうのはやめろ」と注意したが、すぐに暴走族にもどり、秋風が吹き始めた夜、一人でシンナーを吸ってバイクを飛ばしてトラックに突っ込み、死んでしまった。

「お願い。一緒について来て。本当に竜一かどうか見てちょうだい。」

 竜一の母親に頼まれて身元確認に行った。警察署の地下の霊安室に竜一は横たわっていた。遺体の損傷は多少修復されたようだが、頭にはぱっくりと割れた痕があり、傷だらけの顔は、口や鼻やあごやほほが微妙に本来の位置からずれ、形もゆがみ、不気味な苦笑いを浮かべているようにみえた。それ以来、交通死亡事故のニュースを見聞きするたびに、竜一の死に顔を思いだして胃のあたりが重くなった。

 竜一の母親は、火葬場の釜の扉が閉まるまで、ついに竜一の顔を正視することはなかった。母親はアル中のため、それまでにも病院に入院したことはあったが、竜一が死んでからはほんとうに頭がおかしくなって、山奥の精神病院に入ったきり、二度と出てくることはなかった。

(つづく)

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