第5話

 男の子が生まれたらどうなるだろうか。子どものころ、近所に竜一という二つ年下の子がいた。今日の女が男の子を生んだら、竜一母子と似たような人生を送るかもしれないと考え、暗い気持ちになった。竜一の母親は竜一を生んだときからシングルマザーだった。というか、たぶん結婚したことはなかった。母親はあたまが弱く、一夜限りと思われる男との間に何人か子どもを産んだ。そうした子らは施設に預けられた。竜一は好きなヤクザとの間にできた子だったらしく、生活力もないのに自分で育てた。竜一は中学に入ったころに、自分の父親はヤクザだったと知り、父親は隣町のヤクザの大親分だと自慢していたが、実際はそのへんのチンピラか鉄砲玉に違いなかった。

 小学生のときの竜一は、弱虫泣き虫で、近所の子らによくいじめられた。自分は何度か助けてやったことがあって、自分になついた。いつもおなじ服を着てうす汚れた風体だったが、目鼻立ちが整ったきれいな顔をしていて、弟のようにかわいがった。竜一も「兄貴、遊ぼう。」といってときどきウチにきた。そのころから竜一は、スーパーマーケットや個人商店で食べ物を万引きしていた。ウチに上がったときも、竜一が帰ってから家の財布の金が減っていることがあった。

「お前が来るようになってからな。財布の金が減っているんだ。抜き取っただろう。」

「知らないよ。」

「うそを言うな。盗ったんだろう。正直にいえ。」

「ぼくじゃないもん。」

「お前に違いない。」

「ぼくじゃないもん。」

 ほっぺたを平手でバシッと叩いた。竜一はギャーと泣きだし、走って外へ逃げた。もうウチに来ることはないと思ったが、四、五日して「兄貴。遊ぼう」とニコニコしてやってきた。同年齢の子らからは相手にされず、年上の自分はすこし可愛がるところもあって、ウチの居心地がよかったのだろう。ちいさい子を平手打ちし、悪いことをした申し訳なさもあって、百円玉を一つティッシュペーパーに包み、「これを探し出したらやるから、家の中のほかの金には絶対に手をつけるな。」と言い渡して隠した。竜一はすぐにその百円を見つけた。その後もときどき同じことをしてやったが、竜一はかならず器用に百円を手に入れた。それ以来家の金は減らず、財布に手をかけることはなくなったようだ。毎回百円を自分が出すことはできず、母親に援助をもとめたが、母親は意見もせずに出してくれた。家の中の金がへったら困るということもあっただろうが、竜一母子の困窮を知っていてのことだと思う。

 中学にはいって、竜一は自分と同じ学年の不良グループと付き合いだし、突っ張りはじめた。先輩から原付バイクの鍵穴をドライバーでこわし、エンジンをかける方法を学んでからは、そのへんのバイクを盗んで乗り回すようになった。年上の非行少女にセックスを教えてもらってからは、セックスに夢中になり、誰彼かまわず関係をもとうとした。強姦まがいのようなこともあったようなので、「無理やりするのはやめておけ。」と叱ったこともあった。それでもお構いなしに「中出しの竜一だい」と息巻いていた。避妊のことなど頓着しないのが男らしいと思ったのか、自分の快感を優先し、相手のことなど考えない自己中心性が強かった。そのうち、竜一と同じ学年の非行少女が竜一の子を妊娠した。中学生が子どもを産んだらすごいことだと思ったが、相手の家族と産むの堕ろすのともめて、そのうち、その話はきかなくなった。たぶん堕胎したのだろう。

(つづく)

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