第2話

 ならんで仰向けになった。天井には雨漏りでできたような染みがあり、人の顔に見えた。男か女か。年寄りか子どもか。幼い女の子のように見えた。

「歳はいくつ?」

「ハタチ……っていうことにしている。」

「本当は違うの?」

「だからハタチっていったじゃない。」

 怒ったような声で言った。

 少し間が空いてやさしく訊いてきた。

「お客さん。どこから来たの?」

「琴山町。」

「ええっ?すぐ近くじゃない。歩いて来たの?」

「そうだよ。」

「ひょっとして墓地を抜けて来たの?」

「そうだよ。」

「外はもう夜でしょ。すごい。勇気があるねぇ。」

「朝晩、仕事の行き帰りに通りぬけるから慣れている。」

 今度はこちらから訊いた。

「墓地に入ったことある?」

「あるよ。」

そっけなく答えた。

「ママのお墓があるから、週に一度はお参りに行くの。」

 この娘の母親はもう亡くなっているのか。少し可哀そうになった。

「いつお母さん、亡くなったの?まだ若かったんじゃない?」

「二年前。まだ三十過ぎだったの。」

 頭の中で娘の歳を計算した。

 次いで、くだらないことを訊いた。

「そんなに早かったんだ。なんで亡くなったの?交通事故かなにかで?」

 急に勢いよく話はじめた。

「もう大変だったんだから。お酒飲んで。眠剤飲んで。酔っぱらって眠剤を五十錠も六十錠も飲むんだから。それで何回も救急車で運ばれて。そのたびに大変な思いをしたのよ。最後は百錠か二百錠か飲んだみたい。アタシが帰ってきたらもうぐったりして動かなくなっていたの。」

「そうなんだ。…それは辛かっただろうね。」

 しばらく沈黙がつづいた。

「それで、……お父さんとかはどうしているの?」

「ママもね、このへんでお仕事していたの。一日に何人もお客さんをとるじゃない。だから、アタシのパパは誰かわからないの。ときどき馬面のお客さんが来て、ひょっとしてパパだったらどうしようって心配になるの。近親相姦よ。恐ろしい。」

 顔を醜くゆがめて吐き捨てるように言った。そして、突然、こんなことを言いだした。

「ねえ。もしお客さんの赤ちゃんを妊娠しちゃったら産んでもいい?」

 慌てて

「避妊しているんじゃないの?」

 と訊いた。

「一応ピルを飲んでいるけど、よく飲み忘れちゃうの。アタシも眠剤とか安定剤とかたくさん飲むから訳がわからなくなっちゃうのよね。急に生理がくることもあったりして。そんなときは、ああっ妊娠してなくてよかった、って安心するの。あと、エスとかエムとかやばいクスリもやるから時々おかしくなっちゃって。アタシも大変なのよね。」

と言ってキャハハと笑った。

(つづく)

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