7話 久々の実践と反省
魔物化した動物を食べた肉食の獣はより強く、より獰猛になる、とは言え身体強化が自由に使えれば1対1なら余裕で対処できるのだけれども。
牙や爪には獲物の体を蝕む呪いのような毒を持つようになり、常に飢え獲物をさがし、飢えを癒やすために多少の痛みに強くなる。
そして、返り血には同じ毒が入っているので目に入ったり口に入ってしまったのを飲んでしまうことも許されない。
解毒の奇跡も癒やしの奇跡も私は使えないので、全員かすり傷すら許されない戦いで、威力のある炎を上げたり音がでるような魔法は人が来てしまうので使ってはいけない。
久々に
3匹までなら視界に収められるんだけれど4匹ともなると自信がない。
右から1、2、3、4と番号を付けた。
魔物犬1は
わざわざ苦しむような切り方をしてしまったのは申し訳ないが返り血を浴びたくないのだ、と心のなかで謝った。
休むまもなく隣の魔物犬2に斬りかかった瞬間、意識から外れた魔物犬3が回り込んで私の右側から噛みついてくる。
まずい! と思うが体勢が完全に目の前の魔物犬2を斬りかかる姿勢から変えられないし変えれたら魔物犬2が噛みついてくるだろう。
できたら魔物犬2の返り血も浴びたくないのだけど、と思いながら全力で魔物犬2の頭を真っ二つにし、返り血をあびながら目を瞑って転がった。
「左に転がって!」
イレーネの声が聞こえ、考えるまもなく言葉のとおりにゴロゴロと左に転がった。
ギャンと悲鳴が聞こえ、直後頭から大量の水をかけられ、自分でも
ばらまいた
さすが
ちらっと見た感じロペスとルディは危なげなく1頭ずつ残して倒しており、イレーネの援護は必要なかったようだ。
視界の端で魔物犬1がイレーネによって燃やされ、悲鳴に気を取られた瞬間に魔物犬4に飛びかかる。
魔物化した野犬は犬の習性を残して徒党を組む。
おかげで私から目を離したために、身体強化された私の速度に反応できず、私は首を斬り上げてそのまま向こう側へ抜けた。
なんとか最後だけは返り血のを浴びないようにできて満足する。
背後に魔物化した犬の崩れる音を聞き、久々の命のやり取りで思ったより疲労を感じながら
「なにやってんだ、行くぞ」
私の肩をたたいてロペスが走り始めた。
イレーネの速度に合わせてゆっくりと、横に広がって走るお陰で両側から口々にダメ出しをされて久々に心がしおしおと縮んでいく。
「しばらく実戦がなかったら元に戻ってるんじゃないか」
「
「こっちの方が圧倒的に強いんだから様子見なんかいらないだろう?」
「なんで相手に合わせて強化するんだ? 戦力の逐次投入は悪手だぞ」
「心配ならハードスキンかければいいじゃない」
「半端に
いちゃもんでもなんでもなく、的を得ている上に次は怪我や毒、下手をすれば命の危険だってあるんだから反論の余地もない。
常人の足で2日半でたどり着く距離にあるこちら側の砂漠の入り口の街、ボーデュレア。
身体強化かけて走れば3時間もあればつくくらいの距離なのだが、全力で走ると着地に失敗したイレーネの顔面が地面と仲良くなってしまいそうだということなので無理のない速度で走ることにした。
ボーデュレアもファラスの影響がない宿場町なのでアールクドットの
幸いなことにアールクドットがあちこちでやらかしてくれているおかげで以前はほとんど見られなかった旅装の一般人が増えたため、昼夜問わず不審がられることが少なくなった。
万が一検問のようなことをしていたとしたら人が多ければ紛れることもできるかもしれないし、夜なら闇に紛れたり暗いので見られてもごまかせるかもしれない。
そんなことを話しながら休憩を取る。
「ちょっとカオル、スカートなんだからそんな座り方しちゃだめだよ」
何も気にせずに座ったらイレーネに注意されてしまい、ロペスとルディは気まずそうに視線を外していた。
休憩なのでせっかくだからパンを多めに消費してもらいたい。
3日分もいらなかった。
そんな自分のミスをおくびにも出さず食べ盛り達にパンを振る舞った。
「焼くかバターくらい付けないとパンばっかりそんなにいらないぞ!」
ロペスとルディに3本目の棒パンを差し出した時に断られてしまった。
「とりあえず大量のパンを持っているのは不自然だから捨ててくれ」
「ですよね」
引きつった笑いを浮かべてさようならと分かれを告げ、
「あとあの変な服もルディかおれに預けろ、荷物を改められた時に余計なことを言われたくない」
変な服といわれぎょっとするが直後に落ち込み、リュックからカーゴパンツとジャケットを取り出してルディに渡し、代わりにルディの荷物をいくつか受け取った。
「私とイレーネの服が今着てるのしかないことになるんだけど平気なの?」
「女は最悪ワンピース1着と手さえあれば家事できるから問題ない」
え?! と思ってイレーネの方をみると
「すごいでしょ」
と憮然として囁いた。
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