8話 心の鎖と袖の下
気を取り直してボーデュレア入りの相談をする。
隠れ家に潜んで報告を数ヶ月に渡って聞いてみると、強ければ強いほど偉いアールクドットの
なんといっても砂漠の手前の娯楽もないような僻地で実入りも少なそうな仕事だ。
アールクドットも以前の様に大きな動きを見せられない状況でないため、大手を振り徒党を組んで、なんなら通りすがりに殴りつけても問題にならない様な状況である。
情勢が圧倒的に決まってしまっている今、顔を確認するだけの作業に一般兵を連れて
もしかしたら手配書の通報待ちをして捜索なんてしてないかもしれない。
そんな妄想をしている間にロペスとルディによってボーデュレアへの計画が決まった。
最初にルディと私が2人で行って、
そういうわけで二手に別れてすこし急ぎ足で進む。
「私にゃ国とか故郷とかがないわけじゃないけど、そこまで思い入れがないから気分を悪くしたらすまないんだけど」
小走りで移動しながらルディに機会があったら聞いてみようと思っていたことを聞いてみた。
「ルディの口から親兄弟の仇を討ちたいっていうのは聞いたことがなくて、フェルミンと一緒に国を取り戻すんだ!って盛り上がってるんだけど、国を取り戻したいのはプライドの問題なの?」
「改めて動機がプライドかと言われると難しいな。育った場所だからっていうこともあるし、おれも騎士の一族だからね。負けて取られたっていうのは父上に対してもファラスの騎士達にたいしても許せない気持ちはあるし、父上のできなかったことをおれがやりたい気持ちもあるな。あとは隠れ家に籠もる様な生活を強いられていることに対する八つ当たりもかな」
八つ当たり、といってちょっと恥ずかしそうに笑った。
「ハンターの仕事とかやってみたりして、けっこうみんなと一緒ならどこでも生きていけるなあなんておもっちゃったりしてさ。野宿もダンジョンにこもりっぱなしになるのもそんなに苦じゃなかったよ」
「魔法が使えるっていうだけでどこでも生きていけそうな気もするもんね」
「あとは、そうだね、戦って負けたことに対して仇を討ちたいって気にはならないかな、思ったより。父上も自分で戦って死ぬことは騎士の誉って言ってたしね」
寂しそうにいうルディの表情がちょっと嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。
「カオルに聞かれて改めて考えてみるとファラスにはそんなに執着はないのかもね、殿下とはやらなきゃいけないっていう話ばっかりしてて自分がやらなきゃって思ってたけど、引っ張られてただけだったのかもしれないね」
「だからって諦めるわけじゃないよ、殿下をうまく盛り立てていけばうまくいけば騎士じゃなくもっと国とか軍部の中枢にだって食い込めるだろうからね」
ちょっとは打算もあるんだよ、と笑ってみせた。
「殿下? ああ、フェルミン。彼は王族だったからね。また立場も違うんだろうけど、ちゃんと足元を固めて決起するならちゃんと協力するよ」
「殿下は学校行ってた頃から将来上に立つ教育されて来てる人でおれ達みたいに腕試しにハンターの仕事をしたりすることはなかったし、遠出するのも兵站の時くらいだったからね。
やっぱり未来とか将来とか全部失って、暗い隠れ家に閉じ込められることになって、王族としての生活も立場もなくなって色々思い詰めてたみたいだしね。
そういう意味だと外出られないのは辛かったけど殿下ほど追い詰められてないかなっていうと微妙な気がしてきちゃったかな」
落ち込んだような、ちょっと元気がでたような不思議な表情で言った。
「ファラスを取り戻して将軍になるのも、どっか別のところで新しい生き方見つけるんでも味方になったげるから元気だしなよ」
「ああ! ありがとう!」
笑顔で答えたルディの顔をみて、元気がでたようでよかった。
その検問の向こうに柵に囲まれた集落が見えた。
入り口から少し離れた所で検問を行っているのはボーデュレアから協力を得られず、住人と揉め事を起こさなければいいということなのだろうか?
ルディがもつランタンは足元を照らす旅用のランタンで、これは家の中や街中で使うようなランタンを使ってしまうと持ってる本人は周りがよく見えず、遠くにいる野獣や野盗なんかがあそこに無警戒のアホが居るぞ!と灯りに引き寄せられる虫のように集まってきてしまう。
洞窟とかダンジョンの様にある程度狭い場所でなら周りを照らすことは通路全体を照らすことになるので普通のランタンの方がいい場合もあるのだけれど。
ランタンを持ったルディが前を歩き、検問所までゆっくり歩いていく。
「そこの2人! 止まれ!」
何ヶ月か前まで練兵場でよく見たファラスの軽鎧を着た3人のうちのだれかが大声で私達を呼ぶ。
篝火が2基、若い2人が確認を担当し、中年の1人は後ろから監督をしているようだ。
張られているテントは休憩と物置に使っているのだろう、篝火に照らされて中にテーブルと椅子、何台かのベッドが見えた。今いる3人でここを担当しているのは全てだろうか。
ファラスの兵士はルディの前に立ちはだかって威圧的に尋問を開始する。
「どこから来た、目的は」
「働き口を探すためにエルカルカピースから来ました」
「汚いな、そんななりならどこにいっても働けないんじゃないか」
「辛気臭い顔した女だな、ちょっとは笑ってみせろよ」
顔をしかめたり私の顔を下から覗き込んだりして、少しむっとする。
まるでチンピラだが僻地に飛ばされるような人はこんなものか、と心の中で罵倒してから納得し溜飲を下げた。
ルディと別々にされ、篝火の前で取り調べの様に目的と持ち物を調べられた。
「お金もなく仕事も無いので持てるものだけを持って逃げるように来たのです」
「そうだな、アールクドットのもとで働けるおれらと違って平民は大変だよな。逃げた貴族共がさっさと捕まってくれればこんなところで検問しなくて済むんだけどな」
「でもここで四六時中立ってないといけない兵隊さんもお辛いですよね」
「まさか!昼と夜で交代してるさ。で、なにかあったら警報をならすと第3?第4?たしか
ああ、いるんだ。と思わず戦慄し、つばを飲み込んだ。
「寝ずに仕事させられてるのかと心配しました。お仕事終わりにでも皆様で疲れを癒やしてください」
ごそごそと私のリュックをまさぐっていつまでも開放してくれなそうなので、なけなしの風を装って銀貨を2枚握らせた。
手元の銀貨に目をやり小さく笑うと、同情してるように見せかけて私を開放し、ルディの方の兵士を見ると満足げなのでルディの方でも握らせたようだ。
やっぱりこういう場合は心より欲に訴えるに限る。
篝火の前から離れてルディと一緒になんとなく申し訳なさげに通り抜けた。
ボーデュレアの集落の入り口からボーデュレアに入り、緊張から開放されてやっと大きく息を吐いた。
「力で解決できないって辛い」
ルディが小さくぼやいたので良く我慢できました。と褒めた。
「さて、イレーネ達はもう通り抜けたのかな」
真っ暗な闇の中、店の明かりだけを頼りにぼんやりとイレーネを待つ。
数分待ち通り抜けに失敗したかと心配しているとものすごい勢いで何かが膝の裏を叩き、後ろ向きに転びそうになった所を後ろから抱きとめられた。
「力加減間違えた~あああっ」
膝カックンの主のイレーネが私を後ろから支えようとして一緒に尻もちをついた。
「受け止めるの失敗しちゃった。ごめんね」
と可愛く謝ってごまかした。
ルディの方を見ると、ロペスがイレーネの真似をして膝カックンを可愛く誤魔化そうとして失敗し、ボディブローを食らっていた。
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