5話 曲がりくねった隠し通路
日が落ちて、ロペスやルディ達と4人で最後の食事をとろうということになり、表の酒場の店主役のアルドさんが残った野菜と肉でいつもより豪勢な食事を作ってくれた。
「もうここを引き払いますから材料残しておいてもしょうがないですからね、先程フェルミン様にもご好評でしたよ」
フェルミン達はもう食べてここをでたらしい。
ここに来てはじめの頃はふさぎ込みがちだったルディもフェルミンにいつかファラスを取り戻そうと声をかけられ元気がでたのか、最近はよく笑うようになった。
娯楽のない隠れ家でフェルミン達と部屋にこもって気炎をあげる声を2、3日に1回は聞いてよく飽きないなと関心したものだ。
脱出のメンバーを選んだ時、ルイスさんは私達にルディを含めた。
ルディをフェルミン達と行かせなかったのはフェルミンもルディもファラスに行きたがっているからなのだが、万が一だれかが行きたいと言い始めてしまったら止めるものがいなくなってしまう。
そういう理由でフェルミンと同行するのはペドロ。
止められるとは言わないが説得はしようと試みるはずだ。
今の未熟で少数の戦力でやけくそ気味に攻めに行くのは自由だし、それで散るのがいいと王が自ら滅ぶならそれはそれでしょうがない。
しょせん私はよその人なので玉砕覚悟ででも取り戻したいという気持ちは想像がつかないだけなんだろう。
最後の食事は野菜の炒めものと干してない肉を具に入れた干し肉のスープに、柔らかいパン、焼いた川魚だった。
「最後だからってわざわざ買いに行ってくれたんだね」
イレーネ達とこの後に待ち構えている味気ない食事のことを考えないようにして眼の前の食事の味を楽しんだ。
短い間だったけど隠れ家の門番にして料理番、たまに表の酒場に出てはちょっと飲ませてもらっていたりもして思ったより世話になった気がする。
そう思ってみると、色々世話になったお礼につい何かしたくなって
「ありがとう、これ移動中にでも食べてください。向こうでもよろしくおねがいしますね」
私は荷物からパンと干し肉を取り出してテーブルに置いて出口に向かった。
旅装はいかにも旅慣れていますという格好ではなく、持てるだけのものを持って逃げてきた風を装わなくてはいけない。
粗末なズボンにシャツのロペスとルディに、私とイレーネは粗末で少し汚いワンピースが用意された。
女性服が上下に分かれるのは布が沢山使える貴族だけで、平民の女性はワンピースを着るのだそうだ。
「そろそろでます」
とルイスさんに声をかけるとおう、と返事し先頭に立って歩き始めた。
隠れ家の裏手、私が使ってた部屋の一見壁にしか見えない奥の壁の上をルイスさんが殴りつけると壁の真ん中を中心に縦に壁が跳ね上がった。
「押さえてるからくぐれ」
回転した壁を持ち上げたルイスさんが先頭に立っていた私に中に入ることを促した。
「最後向こうから通路を埋めてくれ」
「壁だけ立てておくので必要があったら蹴破れるようにしておきますよ」
全員を通してから壁板をくぐり、壁板がばたんと閉じられたのを確認してヌリカベスティックを突き立てて壁板が動かない様にした。
土壁のトンネルの中を、少し屈んでロペスの
「低いな」
「ずいぶん歩かされるようだが、どこにでるのか」
今歩いてるのは街のどの辺りの地下かな、と頭の中の地図と照らし合わせる。
蛇の胴の様にまがりくねりながらもうどの向きに歩いているかわからなくなり、今どの辺かなんて考えるのを諦めた。
エルカルカピースという都市は頑張れば1日で外周れるくらいの広さなのでそんなに広くはないのだけど、私の身長で少し屈まなければならないトンネルはロペス達の腰に少しずつダメージを与えているようで、歩きながらなんとか伸ばせないかとくねくねと試行錯誤しているのが見えた。
「すまない、休ませてくれ」
2時間ほど歩いた頃、一番背の高いロペスが最初に弱音を吐いて膝をつき、ルディ、イレーネが続いた。
私は軽く屈むと言ってもちょっと膝を曲げて腰を落として歩く程度だったので特にダメージはなく、羨ましいようなそうでもないような顔で見られながら休憩した。
「うう、気持ちいい」
膝立ちになったイレーネが腰の仰け反らせながら逆さに私を見ながら呻いた。
ロペスは猫の背伸びのように四つん這いから足を伸ばして、ルディは腰を捻ったりくねくねして伸びをしているようだった。
イレーネにいやー大変だねえ、なんて話しているとルディが私を見ていることに気づいた。
なにかあるのかとルディの方を見ると慌てたように
「荷物多いよね」
「ああ、これね。日持ちするパンと干し肉を買い込んでおいたの」
質問に答えると興味をなくしたのか、ああ、そうなんだ。と視線を彷徨わせストレッチを始めた。
食べてから大した時間が経ってないのに一休みしたらなんだかお腹が空いてきた気がする。
そう思って荷物から干し肉を出してガシガシ噛みちぎっていると
「あたしにも頂戴」
「いいよ、いくよ」
というイレーネに向かって干し肉を優しく放り投げた。
イレーネは干し肉の軌道を確認し、手に集中して魔力を込めて受け取った。
「歩いたりするのはいいんだけど、手を細かく操作するのは集中しないと難しいね、あと握力の調整も難しいから引きちぎるのも中々慣れないよ」
はあ、とため息をついて引きちぎろうとした手を滑らせていてて、と呟いた。
10分ほど休憩したところでロペスがそろそろ行こうか、と言って立ち上がった。
膝を曲げて腰を落として歩くといいよ、とアドバイスしてあげたので彼らの腰の疲労の軽減と移動速度の向上に繋がり、そういうことは早く言ってくれないかなという非難を浴びた。
それからまた2時間ほど歩くと、木の板の壁に突き当たった。
やっとゴールか。と思い、ロペスが開けてくれるのを待っていると、ロペスが困惑するように板を撫でくりまわし始めるとルディも一緒になってべたべた触り始めた。
「開け方がわからん」
「蹴破るか」
「どこにでるかわからないんだから音立てないでよ」
物騒なことをいうルディをイレーネが咎めた。
一番うしろで大荷物を抱えているので前に見に行けず彼らの動向を見守るばかりの私。
トンネルの高さはずっと変わらず、木の板は扉のようにも見えず、押して開けるわけでもなさそうだ。
板と板の間から薄明かりが漏れているのでこの先はどこかの建物の中に通じているのだろうか。
ふと、思いついたことを言ってみた。
形似てるから開け方も一緒なんじゃない? と。
しかし、つまみも取手もないので引くことができないようで試行錯誤しているロペスを下がらせてルディが彼の剣、シャープエッジを取り出し扉の下の方をちょっとだけ切り取った。
ルディは切り取った木の板に手をかけると、思い切り引っ張り縦に回転する扉を開けることができた。
「器用なもんだ」
ロペスが感心していうとルディに続いて扉から表に出た。
外から叫び声が聞こえ、ロペスとルディと何者かが言い争い始めた。
イレーネと顔を見合わせて急いで隠し通路から出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます